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【あらすじ】
五年ぶりに寂れた故郷の港町に戻ってきた体育教師の佐山明彦。町の成人男性だけが参加を許される年に一度の裸祭りに参加するためだった。日本を代表する荒々しい裸祭りの一つとして知られながら、その中身は神秘のベールに包まれた謎の奇祭……。
初めて参加した明彦は、漁師である父・辰雄の過去、そして男たちの秘密を知ることになる。
「夕方とはいえ、真夏の西日は未だ衰えを知らず、皆あまりの暑さに上半身裸で作業に精を出している。甲板をブラシで磨く者、網を干す者、船から積荷を下ろしている者――。うら寂しい港の雰囲気にあって、男らだけは明らかに祭りを控え興奮を隠せないといった様子で、聞こえてくる声はときおり漁師の荒々しい怒気をはらみながらもどこか弾んだ活気があった。
彼らは一様に真っ黒に日焼けし、自然な、逞しい体格をしている。都会のスポーツジムの最先端器具で効率よく鍛えた身体とは違い、肩から腕の圧倒的な筋量が特徴で、体幹も背筋が発達しているために全体が丸太のような厚みを持っているのだ。おびただしい量の汗で水浴びでもしたかのように全身を濡らし、それが赤みを帯びた逆光の西日を受けて、慶派の屈強な彫像のようなシルエットを浮かび上がらせていた。その体格や身のこなしは、これぞ海の男といった独特の雄の匂いを発散させており、明彦は無意識に目で追ってしまう。昔は当たり前のように見ていたはずが、離れてからこうして久しぶりに目にすると、やはりむせ返るような野郎臭さが漂ってくるのである。『鬼賀の男は特別や』と電車の中で男が言った言葉を思い出した。(抜粋)」
***
■初出『G-men 220号(2014年7月号)』。掲載作『夜の海の祭』を改題・加筆修正。
■「海の男シリーズ」三部作の第一作。
■総文字数32000字超の中編。