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観察業務がなくなると暇だった。本来の仕事に励みたいところだが、若様は閨に呼んでくれない。
若様自身も、やることが一つ無くなって手持無沙汰なのだろうか、壁に立てかけてあった楽器に手を伸ばした。
ぽろんと弦が振動する。
寝椅子に座る若様の前に、ハルは座らされた。暴君の権力発動である。
「皆が歌ってたのに、お前だけ怠けた」
お友達との宴での出来事を引っ張り出された。
「だって歌なんかわかんないし」
「子供の歌だぞ。ラクト、歌ってみろ」
暴君は被害者を増やした。ラクトはハルの横に座って「オレはオンチなんですよぉ」と涙目になる。が、暴君は許してくれない。いいから歌えと嗜虐的な命令をした。
ラクトが及び腰で歌う。何も知らないハルでもわかるくらいに、無残なものだった。心がちっとも洗われないし楽しくもならない。訪れるのは絶望的な不快感だ。
「つまらない。お前たち、明日までに歌えるようになっておけ」
暴君は命令を下した。
『お空は広くて大きいの』だなんて、わざわざ歌う意味があるだろうか? 言われなくても空を見ればわかる、広くて大きいのなんか一目瞭然! 誰だこんな歌を作ったのは。
陰鬱な面持ちでラクトが言った。
「なあ、ハルは王宮で愛玩奴○してんだろ。宴にも出たんだろ。なんで歌えないんだよ」
歌舞婉曲は愛玩奴○の基本だ。が、ハルはできない。
「ケツ専門だから。お前こそ愛玩奴○だったろ、なんで出来ないんだよ」
「練習したけど駄目だった」
どちらが悲惨だろう。
モリースに泣きついて、余りもののお菓子を融通してもらった。それを持って、歌の得意な奴○のところを訪ねる。若様の音楽仲間のところの執事だ。
どうかお歌をご教授くださいと言って、お菓子を差し出した。若様のお楽しみの為ならと、お菓子を受け取ってくれた。