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若様の老執事は、衣裳部屋で靴にブラシをかけていた。
「昔のように体が動かなくてねぇ。簡単なお仕事だけ回ってくるようになった」
小さな椅子に座って、彼はため息を付く。
「こうして腰をかがめているとシンドイんだ」
「背が高いから余計だろ」
ハルは床に座り込んで靴を抱える。
「若様が公爵様に、ハルに夜伽はさせないが、近くに置いて気晴らしをする相手だとおっしゃったらしい」
「うん……」
「性質が悪いといって、城内の偉い人達が眉をひそめている」
ハルはモリースを見上げる。彼は靴を見下ろして作業を続けていた。
「欲求を吐き出す道具としてならいざ知らず、心を通わせる相手など性質が悪いということだ。偉い人達は、お前が手練手管で若様のお心を掴んで、妾になろうとしていると思っている」
「俺は皇太子のもんだよ」
「若様がねだれば、皇太子殿下はお前をくださるよ。若様は今、何をねだっても叶えてもらえる立場にいるんだ。我が星から宇宙の学び舎に出る、最初の一人だからね。未来なんだ、若様は……宮殿の偉い人にとっても、この城の皆にとっても」
若様のものに。若様の、奴○に……。ハルは心が揺れる。
モリースがハルに目線を映す。
「お前にのめり込んでお勉強をサボったり、果ては宇宙に行きたくないと言い出したらと心配しているんだ。排除されないように気を付けるんだぞ」
「排除?」
「周囲がお前を強引に、皇太子殿下に返してしまうかもしれない」
「そんな……」
「事故で死んでしまうように、工夫するかもしれない。死んでしまったら若様はもう、執着できないからな」