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「痴○がいるって叫ぶぞ」
「スリ師がいると叫ぶので相討ちです」
山手線を縄張りにするとあるスリ師を襲う受難……痴○。
自称天才スリ師は知略とテクを駆使して痴○の財布を奪えるか。
山手線を舞台にハブvsマングースの痴闘の火蓋が切って落とされた!
(電車/痴○/無理矢理/レ○プ/SM/調教/アナルパール/ローター/エロコメディ)
エリート敬語攻め刑事×強気意地っ張り受けスリ師の短編シリーズです。
◆目次◆
「山手マングース」
「続・山手マングース」
「ああ哀愁の取調室」
「ああ迷い子よどこへいく」
「ハロウィンはカップルシートで」
「ホテル毘沙門天」
「頭から食べるか尻から食べるか」
作者Twitterアカウント https://twitter.com/wKoxaUr47xGeAZy
@wKoxaUr47xGeAZy
(作品の裏話や情報を更新しています)
山手線はスリ師の梁山泊として知られている。
『二番線に電車が参ります ご利用の方は白線の内側にさがってお待ちください』
転落予防の注意を喚起するアナウンスがホームに響く。
山手線といえば今さら説明するまでもない都民にとっては身近な路線、東京の内側に円を描くように敷設された環状線。山手線の呼称が示す区間には品川、大崎、五反田、目黒、恵比寿、池袋以下略が含まれる。通勤通学の時間帯を中心にビジネス需要と生活需要に応え、一日数万から数十万が利用する大所帯だ。
昼にはまだ少し早い頃合、車内にはサラリーマンだろうスーツ姿の男性やカジュアルな服装の学生が目立つ。天井から鈴なりにぶらさがる吊り革を掴んだ彼らは、それぞれ音楽を聴いたり新聞を読んだり目的地まで漫然と時間を潰す。
過半数の人間にとって山手線は目的地に行くための交通手段のひとつ、たんなる通過点でしかないが、車両を仕事場にしている人間も少数ながら存在する。
羽生もその一人だった。
新宿駅から乗り込み三周目、周囲の状況を的確かつ正確に把握し、いよいよ行動を開始する。
見た目はごく普通の二十代後半男性。
シャツとスラックスの私服を着くずしたどこかやる気のない姿は、就職活動を凍結しバイトで食い繋ぐうちに三十路が押し迫ったフリーターに見える。
羽生は山手線を縄張りにするスリ師だ。
山手線はスリの聖域、腕前に自信もつ猛者どもが割拠する梁山泊。
二十七と年こそ若いが、その腕前は同業者のあいだでも抜きん出て一目おかれ、若造とばかにされないだけのテクと実績がある。
中坊の頃から手癖が悪く、もともと家が貧乏で遊ぶ金などもらえず小遣い稼ぎと憂さ晴らしを兼ねて山手線に乗って財布をスッていたため、スリ歴十二年にもなるこの道のベテランだ。
獲物に一切の痛痒感じさせず財布をスる手腕は同業者の間でも語り草となり、羽生の名字にひっかけて「山手のハブ」の異名を頂戴している。本人、いまどきハブかよそのセンスなしだぜと内心忸怩たるものを感じないではないが、異名に異議申し立てるのも恥ずかしいので呼びたいやつには勝手に呼ばせている。
吊り革を掴み眠たげにあくびする学生とスポーツ新聞を器用に折りたたんで読むサラリーマンの間をくぐり、目的の人物へ接近。
本日、羽生が狙いをつけたのは企業の重役風の中年男性。
仕立てのよいダークグレイの背広を着こなし、漆黒の光沢放つ靴をはく。
日本人の体型に従来の既製品は似合わない。
なで肩寸胴短足だとどうしても着られてる感が先にたってしまうが、男のスーツはきちんと寸法をとったオーダーメイド仕立てで即ち経済的に余裕がある証拠。靴も高そうだ。
心の中で舌なめずり、つまさきからてっぺんまでじっくり観察。
吊り革を掴みさりげなく隣に寄り添う。
男は羽生の接近に注意を払わず熱心に経済新聞を読んでいる。昨今の不況を憂えているのだろう。
車内はおよそ八割の入り。スリ師にとって最高の状況だ。これより人が多く混んでいても少なくてもやりにくい。前者は過密して身動きできず、後者はバレる危険が高まる。懐に手が届くほど近寄っても不自然に思われない距離というのは実に按配がむずかしい。
『次は田町、次は田町。お降りのお客様は電車がとまるまでお待ちください』
定例のアナウンスが響き、ドア付近に下車予定の乗客が移動する。
羽生は慎重を期して距離を縮める。
指先がちりちり疼く。
慌てるな、冷静に、沈着さを保て。
目を閉じ、呼吸を整え、神経を鋭敏に研ぎ澄ませる。
眼光鋭くえものの横顔をうかがう。
だいじょうぶ、気付いてない。
あたりまえだ、この俺が素人に気付かれるような凡ミスをするか。
経験と実践を踏み鍛え上げた己のスキルとテクに、羽生は傲慢なほどの自信をもっている。
俺はプロだ、素人に気取られるようなミスは万が一にもおかさない。
一方で油断は禁物と己の増長を戒める。
何が引き金で気付かれるかわからない。異様に勘の鋭い人間というのはたしかに何割かの確率で存在し、運悪くそんなヤツに当たってしまったら……
輝かしい栄光と伝説に彩られたスリ人生に終止符が打たれる。
さあ本番だ。
気を引き締め、勝負に打って出る。やみつきになる高揚感に合わせ指先がぴりりと放電する。
男の財布は―……
口元に薄く笑みが浮かぶ。
俺の名前は龍《タツ》。
仲間内じゃあゴマシオのタツって呼ばれてる。通り名の由来はいぶし銀の胡麻塩頭だ。
年齢は還暦をちょい出たところ、足腰は健康だし気力は衰えちゃいねえ。
俺の縄張りは新宿駅構内と山手線。
ここは日本トップクラスの規模と利用者数を誇る駅で、毎日何万何十万って人間が乗り降りする。
みんな携帯をいじったり連れとだべったり目先の用事に大忙し。ながら作業は危険だって、親は教えちゃくれなかったのかね。
ベテランスリ師にとっちゃ新宿駅は入れ食いの釣り堀。
山手線の車両内の仕事も捗るが、ホームですれ違うヤツの財布を狙うのも上々。
新宿駅に来るヤツは誰も彼もあくせくして、その大半がズボンやハンドバックのポケットに無造作に財布を突っ込んだままだ。
券売機で切符を買う手間を考えりゃ、そっちの方が都合いい。
その日も俺は競馬新聞を広げ、構内で獲物を物色していた。
「ぶっ殺されてェかガキ!!」
濁声の恫喝に顔を上げりゃ少し離れたコインロッカーの陰で、前をはだけた学ランの下に、赤いフードパーカーを着込んだやんちゃそうなガキがヤクザに絡まれていた。
「人様の財布に手ェ付けてやがって、指詰めるかえェ?」
ヤクザが声を張り上げて脅せど、ガキは意固地にダンマリをきめこむ。
癖の強い髪に右目の下の泣きぼくろ。
唇をへの字にひん曲げて、向こうっ気が強そうな面構えだ。
「ぐっ!」
ガキの鳩尾に蹴りが炸裂、たまらず呻いて突っ伏す。
さらに前髪を掴んで横っ面を張り飛ばす。
「親は?住所は?学校どこだ、慰謝料たんまりぶんどってやるから覚悟しな」
「よりにもよって兄貴のカネくすねようなんて怖いもの知らずな」
「お前も運がねェな、別のヤツ狙えばいいのに」
柄シャツにチェーンネックレスの舎弟がニヤケ面で冷やかす。
灸をすえられたガキはといえば、口の端をねじってふてぶてしい笑みを作る。
「勘違いすんな、アンタだから狙ったの」
「なっ……」
「図体でけえしノロマで助かった。背広の胸ポケットこれ見よがしに膨らませて、分厚い札入れだと思ったら殆どカードで使い物になりゃしねえ」
「コイツ!!」
まんまと挑発にのせられ、額に青筋立てたヤクザが拳を振り抜く。
あーあ、めんどくせえ。