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振込め詐欺の前科持ちフリーター青年・悦巳をある日突然高級車で拉致りにきたのは被害者の孫で俺様若社長・誠一。
「警察がいやなら俺と契約するか?」
誠一が出した条件とは、住み込みの家政夫として誠一の一人娘・みはなの面倒を見ることだった。
(ホームドラマ/子持ち社長×元詐欺師家政夫/傲慢俺様攻め×一途わんこ受け/年の差)
まさみの長編BL小説、こちらは後編になります。
「オレオレ御曹司 上」から読まれるとわかりやすいと思います。
「オレオレ御曹司」上巻
https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ438049.html
「オレオレ御曹司」下巻
https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ438054.html
「オレオレ御曹司」短編集
https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ438057.html
作者Twitterアカウント https://twitter.com/wKoxaUr47xGeAZy
@wKoxaUr47xGeAZy
(作品の裏話や情報を更新しています)
◆目次◆
「オレオレ御曹司 後編」
「泣くな。帰って来たんだろ」
「……聞かねーのかよ、ここ出た理由」
同い年に子供扱いされふてくされる。
箪笥の上から救急箱をとって帰って来るや胡坐をかき、偉そうに顎をしゃくる。
言葉にだすまでもなく通じ合い、シャツの袖をめくりあげて腕を突き出す。大志が救急箱のふたを開け、脱脂綿に消毒液をたらす。
「昔と逆だな」
「昔?」
「施設にいた頃。喧嘩のたんびべそかきながら手当てしてくれたろ」
消毒液を染ませた脱脂綿で肘の擦り傷を拭い絆創膏を貼る。大志の顔にふっと笑みが過ぎる。
「覚えてるか、小学校の遠足。弁当ばかにされてとんずらこいたこと」
「……覚えてる」
施設の皆とおなじ弁当の中身をばかにされ林に逃げ込んだ悦巳がさんざん泣き明かして帰ってみれば、山頂にシートを広げた児童と引率の教師がパニックに陥っていた。
喧嘩っ早い大志が悦巳の弁当を笑った生徒に殴りかかり、鼻血をたらし四つん這いで逃げるその生徒の尻を、教師ふたりがかりで羽交い絞めにされながらまだ蹴り上げていた。
弁当箱は取っ組み合いのさなかに蹴散らされ、色とりどりのおかずがシートの上や地面にむざんにぶち撒かれ踏み潰されていた。
「あとで大目玉くらったっけ」
「遠足どころじゃなかったな」
「お前が殴り倒したヤツ、あれからトラウマ刻まれて廊下ですれちがうたびびびりまくってたな」
「ざまーみろ、ひとの弁当ばかにするからばちがあたったんだ」
「あてたんだろ」
勝手にいなくなった悦巳と騒ぎの主犯の大志は教師に叱責され、施設の職員にもたっぷりお小言を頂戴した。
帰り道のバスの中、弁当を食い損ね空腹の悦巳のもとに絆創膏だらけの大志がやってきて握りこぶしを突き出した。
『やる』
「……チロルチョコくれた」
「おやつののこりだよ」
「自分だって腹へってたくせに。喧嘩の最中に弁当ぶちまけたってあとで聞いたぞ」
「俺はいーの、メシ抜き慣れてっから。食いしん坊でいやしん坊のえっちゃんはおなかと背中がくっついちまうだろ」
懐かしい思い出が甦り自然と顔が和む。柔和な笑みを浮かべる悦巳と向かい合い、救急箱のふたを閉じた大志が言う。
「おかえり、悦巳」
あの時とおなじぶっきらぼうな顔で。照れ隠しのポーズで。
しばらく忘れていたあたたかな感情が胸を満たしていく。
行くあてなくさまよっていた数時間前が嘘のように孤独が癒され、泣き笑いに似て情けなく崩れた表情で告げる。
「ただいま……」
俺にも帰る場所があった。
待っててくれるヤツがいた。
ひとりぼっちなんかじゃ、ない。
「悦巳?おい」
大志の声が遠のく。安心したら急に睡魔が押し寄せてきた。この一週間ろくに眠れなかった、ソファーベッドの寝心地に慣れて漫画喫茶の硬いリクライニングチェアに馴染めなくて、だけど大志の隣でなら
「今度カレー食わしてやる……上手くなったんだから……」
傾きかけた体をしっかり支えてくれる、力強い腕に凭れて目を瞑る。
極限まで嵩んだ疲労と睡魔がなだれを起こし、大志の胸に凭れて深い眠りにおちる。
大志はしばらく身動きせず悦巳の体を受け止めていたが、規則正しい寝息をたてる間抜けな寝顔をのぞきこみ、ちっと舌打ち。
「……人の気も知らねえで……」
正体をなくした悦巳を背負い、隅に丸めた布団のところまでつれていく。
足で蹴って布団を敷きそこに横たえる。
悦巳はすやすや眠りこけている。子供の頃と変わらない馬鹿っぽい顔が徒労と苦笑を誘う。
笑っていられたのは寝言を聞くまでだった。
「せいいちさ………」
布団に横たわった悦巳の口元が伸び縮み、知らない男の名前を呟く。
瞼に閉ざされた目尻に一粒涙が浮かび、透明な筋をひいてこめかみを伝っていく。
独占欲じみた凶暴な衝動が腹の中で膨れ上がり、熟睡する悦巳の両手を顔の横でおさえてのしかかる。
大志が貸したシャツは少し大きく、たるみきった襟ぐりから控えめに浮いた鎖骨が覗く。
生唾を飲む。
「……引っ張って伸びちまったな」
どうでもいいことを呟き、こめかみを滑る涙を指ですくって舐める。塩辛い水が舌の上で溶ける。
無防備すぎる寝姿に火がつく。悦巳は大志が押し被さったことにも気付かない。シャツの裾からこっそり手をさしいれ痩せた下腹をまさぐる。首元に浮かぶ痣に気付き、シャツを巻き上げようとした手がとまる。
尻ポケットの携帯が鳴る。
隙のない動作で携帯をとり、ふたを開いて耳にあてる。
「はい、大志です。……はい、いました。ガセじゃなかったみたいっすね。近日中にそっちにつれていきます、御影さん」
飢えたぎらつきを放つ目でしどけない寝姿を凝視、長々と吐息して上体を起こす。
「わかってます。こいつには稼いでもらわねーと」
報告を終えて切った携帯を放り投げ、寝返りを打つ悦巳に毛布をかけてやる。
「……抜け駆けは許さねえぞ」
誠一とやらの夢を見ているのだろうか、時折寝言を呟きながらふやけきった笑みを浮かべる悦巳の頭をなで酷薄な笑みを刷く。
「逃がさねえからな、悦巳」
「コントに滑った気分はどうだ、えっちゃん」
「っ……はは……なかなか爽快っすね……」
「そうか。セッティングした俺としちゃ大恥だぜ」
狂的に哄笑しながら胸ぐらを締め上げる。
「俺もさ、暇じゃないんだ。こう見えて結構忙しいわけよ。譲歩したんだけどなあ……わざわざ車で迎えにいってやったろ?しねえよ普通こんな事、お前だから特別に出してやったんだ」
「そ、れは……ご苦労様っすね」
「ま、いいってことよ。で、答えは?」
「ノー、いいえ、否……」
危なっかしく縺れる舌で抗えば平手打ちをくらい目の裏に火花が炸裂、大志が何かを叫び飛び出そうとして舎弟と揉み合い相争う騒音がたつ、リズムをとるようにごつんごつん頭を打ちつけられるごと激痛で灼熱した意識が朦朧と遠のく。
「譲歩したんだけどなあ、がっかりだ、残念だ、焼肉の恩忘れちまったか、案外薄情だなお前」
「焼肉、も、風俗、も、色々おごってもらって感謝してるっす……けど俺、も、あんたのとこで働けない……くの、やです」
「なんで?」
「家政夫、だからっすよ」
「は?」
「だからぁ……」
飲み込みの悪さに苛立ち手の甲で鼻血を拭きつつ起き上がる。
鼻血をなすったせいでかえって薄赤く汚れが広がった顔に不敵な笑みを刻み、ふてぶてしい眼差しを抉りこむ。
「俺にああしろこうしろ命令していいのは児玉誠一ただ一人なんすよ」
もう詐欺師じゃない、ただの家政夫だから。
契約を交わした主以外の命令は聞けない従えないと無理難題を突っぱねる。
「大体さ、あんたはもう俺の上司じゃないんだから言う事聞く義理ねっしょ?」
「………そうか」
しぶとく減らず口を叩く獲物にご満悦の態で喉を鳴らし、だぶつく上着がうねりまとわりつく貧弱な四肢をゆるやかに組み敷く。
「落とし前をつけさせてもらうぜ」