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秋葉の路上でザクを壊され悲嘆に暮れるニート青年・八王子 東。彼をオタク狩りから救ったのは見るからに軽薄でナンパな青年・小金井リュウ。
「へー八王子っていうんだ。ヘンな名前。これもらっとくね」
免許証をとりあげた上助けた恩に着せアパートに転がりこんできた小金井と、人の目をまともに見れない卑屈で対人恐怖症気味の八王子のぬるーい東京近郊同居ライフ。
(同居/モラトリアム/日常/ライト/コメディ)
ワケありヒモ家政夫なチャラ男×ニートひきこもりオタクな元いじめられっ子
まさみの長編BL小説「小金井は八王子に恋してる」前編です。
下巻 https://www.dlsite.com/bl/work/=/product_id/RJ438064.html
作者Twitterアカウント @wKoxaUr47xGeAZy
(作品の裏話や情報を更新しています)
◆目次◆
「小金井は八王子に恋してる 前編」
「うー……ん……?」
まとわり付く眠気を払いのけ薄目を開ける。
まことに遺憾ながら、ぼくをちゃん付けで呼ぶ図々しい人間はひとりしか心当たりがない。自慢じゃないが友達がいないのだ。
「…なんですか、小金井さん……押入れで寝てたはず……ちゃんと襖閉めたのこの目で確認したのに、畳に転がってくるなんて寝相悪すぎ……」
待て、襖は無事か?
就寝前、小金井が押入れに入るのを確認した。
そもそもぼくの部屋はテレビやゲーム機やテーブルや積ん読の漫画やラノベに占拠されて人がごろり寝る余裕がない。
そういうわけで小金井には押入れに入ってもらった。
事前に確認したところさいわいにも閉所暗所恐怖症のケはないということで、居候なんだからちょっと狭いくらい我慢しろと追いたて
「だいじょうぶ、いくら俺でも人さまんちの襖蹴破るようなまねしないよ。せっかく泊めてもらったのに」
「ですよね。なーんだ、安心……」
「泊めてもらったお礼をね」
「はい?」
「借りは返さねーと」
ところで、ぼくの上に乗ってる黒い影はなんだ。
なんとなく体が重いと思っていた。重いはずだ、人が乗ってるんだから。
どっしり、どっかり、そんな擬音の重量感。
状況がよくわからない。
「………めがね、めがね」
「これ?」
「あ、どうも」
軽く会釈して眼鏡を受け取り、かける。
部屋の隅、散らかり放題の本を乱雑にのけ確保したスペースにしけった布団を敷き就寝中のぼくの上に小金井がのっかっていた。
「………トイレはあっちです」
「知ってる」
丁寧に指さして教えてやったのにそっけなく頷かれ肩透かしをくう。
じゃあなんでぼくの上にのっかってんだよコイツ。
居候の分際で布団で寝ようなんて贅沢な。
お前なんか押入れで十分だ、いやなら出て行け、それか廊下で寝ろ。
怒涛の如く込み上げる罵倒を封じ、おもいっきり不審な眼差しで馬乗りになった男を睨む。
小金井がぼくの上でだしぬけにごそごそやりだす。
「東ちゃん童貞でしょ?初めてはキツイだろうから、じっとしてていいよ。まかしといて」
んじゃお言葉に甘えて。
「甘えちゃいけないだろ!?」
よくわからない。
わからないが、この状況はまずい。非常にまずい予感がひしひしと。
得体の知れぬ胸騒ぎに駆られ毛布を剥ぎがばり跳ね起きようとすれば、小金井に宥めすかすような声音で制される。
「しっ」
どういうことだ、なんで起きたら小金井が上にのっかってるんだ。ちゃんと襖閉めたのに。
というか、ぼくの寝込みを襲って何を企んでる?
強盗。
恐ろしい可能性に思い至り、一気に毛穴が開いて冷や汗が噴き出す。
「……………っ………」
自称ヒモ、本性強盗。マウントをとられるとは不覚。
携帯は……だめだ、テーブルの端にのっかっててぎりぎり手が届きそうにない。
「こ、こ、ころ、ころころころ」
「コロ助?」
「初めてのチュウどころの騒ぎじゃないです!!」
いざ進めやキッチン。
殺さないでと言おうとして噛みに噛みまくる。突っ込みだけは噛まない自分が恨めしい。
大胆にマウントとった小金井は舌を噛みつつ命乞いするぼくを怪訝な顔で見下ろしている。
ああ、もうおしまいだ。
二十二年の短い生涯、心残りはたくさんある。
読んでない漫画、読んでないラノベ、開封してないフィギュア、作りかけのガンプラ、撮りためて見てないアニメ……
固く目を瞑り、最期の頼みを口にする。
「い、痛くしないでください……」
死ぬなら、せめてらくに死にたい。ぼくはマゾじゃない、痛いのは大嫌いだ。
「安心してよ。自分で言うのもなんだけど、俺、上手いからさ」
「こがねいさん、ぼく以前にも経験あるんですか?」
「まあそれで食ってきたようなもんだしね」
小金井は一度ならず人殺しの前科があるプロの強盗だった。
そこらへんを普通に歩いてそうなイマドキの若者のくせして侮りがたし。
「ひぃ………」
あっさり悪びれず殺人の前科を告白した小金井に戦慄、凶悪犯と狭く暗い部屋の中一対一至近距離で顔突き合わせた異常な状況に頭のネジが飛ぶ。
八王子東二十二歳、恥の多い生涯をおくってしまいました。
ぼくが死んだらパソコンは中身を覗かず焼却、部屋にあるラノベや漫画エロゲは棺と一緒に火葬に処して……
「!?ぃひっ、」
不意打ちだった。
突如として脇腹に滑り込んだ手の感触に、悶々と練り始めた遺言の文面も消し飛ぶ。
「な、いひゃ、なに?そこ頚動脈じゃない、絞めるなら首」
「東ちゃん痩せてるね。ちゃんと飯食ってんの?」