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はるのうた 第二話

  • はるのうた 第二話 [Tulip-an]
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はるのうた 第二話 [Tulip-an]
Cercle Tulip-an
Date de sortie 14/07/2021
Série はるのうた
Âge
Format du produit
Format de fichier
PDF
Autre
Langues prises en charge
Nombre de pages 24
Genre
Taille du fichier
622,21KB

Résumé du produit

はるのうた 第二話

ラクトはまた、旅立ってしまった。今度は名前を書き替えるだけなので、前よりも早く帰るという。
 ハルは窓辺でのんびりと巣を眺める。のんびりしすぎて自分の役割を忘れそうだ。若様が急にその気になったら――たぶんならないだろうが――ちゃんと受け入れられるだろうか。たまに自分でアレをほぐしたほうがいいだろうか? でも無意味なことはしたくない。
 お尻が平和だ……。
 撮影機器の画面越しに巣を眺めている。肉眼よりよく見える。ズーム機能って素晴らしい。
 まん丸く太った雌が巣の中で陣取っている。雄が一生懸命餌を運んでいた。
 尾羽をむしられたり食事を貢がされたり。大変だなぁなんて思いながら足の筋を伸ばしていると……雌がお尻を震わせた。なんかしてる……糞じゃない。
 ハルはごろりと転がるようにして、カーテンの中から出る。勉強をしていた若様が、ぎょっとしたように顔を上げた。
「どうした」
「お尻が! お尻がなんかしてます」
「はぁ?」
「まんまるいものが、みゅ~って出てます、お尻から。鳥の!」
 勉強道具を放り出して、若様もカーテンの中に潜り込む。二人で肩を寄せ合いながら、撮影機器の画面を見つめる。
「卵だ……何個目だ?」
「わかんないです」
「ええと、……三個……四個……。いつの間にそんなに産んだんだ、後で映像を見直さないと」
「まだ一杯産みますか?」
「もう終わりだ、たぶん。ちょっと多めだな、一個は予備かも」
「予備?」
「雛に食わせるためのものだ」
 可愛い顔してるくせに、やることがいちいちエゲツナイ。
「抱卵だ……いいなぁ……。雌が卵を温めるんだ。ちゃんと映像撮れよ。で、後で編集するんだからな」
「編集してからどうするんですか?」
「城に持って帰って保管する。いずれ宇宙に持って行って、観る」
 小鳥の産卵で興奮するんだろうか。皇太子より趣味がイカレてるんだろうか。
 若様は窓の向こうに目をやる。
「城の庭に行けばいくつも巣があるのに。宇宙に行ったら見られないんだものなぁ」
 青い瞳がまた、色を失って柔な光を帯びて見える。皇太子の言った「とびきり綺麗」という言葉に、納得しきりだ。
 陽に透ける髪の端が蜜の色になっている。触りたい。指を絡めて……それからどうしよう。触れるだけでも特別なのだ。貴族の髪に好きに触れるなんて許されることじゃない。
 騎士になった貴族の男は、髪を長く伸ばす。寄宿学校を卒業したら叙任される若様は、今から髪を伸ばしている。叙任式で見栄えがいいようにだ。
 真っすぐでつややかで、美しい髪。触りたい。
「ねえ、若様」
 ハルは小さな声できいた。

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