Tikuwabuさんのレビュー一覧

BG8巻では、メンバーの覚醒編と言うべき内容が収録されています。

特に大きいのが、前巻から引き継いで続けられた雪祈の苦悩。
苦しむ中で、自身が書いた「N.E.W」のソロ演奏の最中に一つの殻を破ってみせた彼の姿は、この作品でも切っての名シーンの一つでしょう。
単音の連続から展開する音楽の残影はあまりに美しい。

大学に行ってない玉田が母親からドヤされる(映画よりもお母さんがだいぶ厳しい)、そんな展開もあった今巻。
彼もまた、見開き一枚絵で見事なソロを仲間内で演じて見せた。

ドラマの濃さと、演奏の美しさ。
二つが絡み合い、両立し、それが卓出して提供されている。これぞブルージャイアントと言うべき巻でしょう。素晴らしい限りです。


映画ファンの視点で見ると、実はこの巻はかなり重要な「映画と原作漫画の違い」が出ている巻でもあります。
というのも、終盤に行われた葛飾ジャズフェスの打ち合わせに赴いているのが雪祈なんですよね。
映画では大で、そこで語られる会話などは同様なのですが、キャラの役割が異なっている。

バンド結成の申し出などを見ても、やはり東京編が雪祈中心に動いているのは間違いないでしょう。
今巻でも

「ソロ演奏に苦しむ雪祈に、厳しい言葉で助言する大」

という構図が描かれています。
これは言い換えれば「苦悩する主人公と助言する仲間」って構図です。
だからこそ、立川監督は雪祈主人公の映画構想を提案したのでしょうし、そうならなかったがゆえに、いくつかの役を大に託す改変が生まれたのだと思われます。

雪祈の家での会話を2人(原作漫画)ではなく3人(映画)に変えたのも興味深い改変の一つ。
ストーリー構成もさることながら、「3人のバンド」という構図を強化する意図が感じられます。


映画ファンにとっても興味深く、単巻としても面白く。
そして、ジャズフェス参加という引きもまた良い。

情感多めの、実にBGらしい一巻でした。面白かったです!

シュプリーム2巻は、初めて訪れた街ミュンヘンを離れ、そこで出会ったベーシストの女性を探しにハンブルクに出向く物語です。

ハンナ・ペータース。
あるバンドで臨時のメンバーをしていた彼女を見て、大は組むことを提案するのですが、そこでは断られてしまいます。
しかし、

「バンドでの演奏が終わったらハンブルクに帰るから」

その言葉を頼りに、大はドイツ第二の都市へと旅立つのです。


物語は出会いであり、別れ。

最初の理解者だったクリスと、その友達たちとの別れは情感豊かに、無声で。
彼がクリスに送ったメッセージがまた痺れますね。
言葉の選びが実にこの作品らしい。素朴な滋味がある。

ハンナとの出会いを求める遮二無二感も、また大らしくて良い。
2,000枚のビラを配った頃から、彼は変わらないでいる。

ハンナの現在地のリアリティもまたこの作品らしいところです。

重苦しいコートを脱いだ彼女の言葉は赤裸々で、偏見に悩まされていた自分自身が同じ穴の狢だったと思い知る様は強烈。
最後の言葉もまた、味わい深い。


いよいよドイツ編が始まる予感のする一巻でした。

ソロが悪いわけじゃないですが、やはりバンドこそ音楽の華ですからね。
一から始まり、仲間集めから始まるワクワクの第二部、ですね。

今作は、BLUE GIANT の第二部「SUPREME(シュプリーム)」の1巻。
日本を離れ、師匠の勧めでドイツの地に飛び立った大の、そのファーストステップが描かれています。

甘くはない。東独らしい人種差別の類も散見される。
しかし一方で、やはり彼は人との出会いに恵まれてもいる。

そんな風景が描かれた1巻でしたね。


物語の中核は、大学生のクリス・ヴェーバーとの出会いでしょう。
親身になって大の居場所を作り、居られる場所(演奏の場)を設けてくれた彼の存在は本当に大きいです。

彼との出会いがあったればこそ、大は家族にメッセージを送ることができた。
演奏環境の違いや、観衆の文化の違いに戸惑いながら、それでも

「オレはドイツに来てよかったよ」

と、最初のメッセージでそう送ることができたのです。
物語としては淡々として、やや地味にも見える。
ただ、そのステップの歩みは重く着実で、この作品らしい滋味が秘めています。


ドイツ編の先行きは分からないけれど、まずは一歩目を着実に踏み出した大。
ドイツ編での活躍には乞うご期待、といったところでしょうか。

新しい物に反応の早いだろう若者が最初のターゲットになったのは、妥当なところでしょう。
ここからどう物語が展開するか、楽しみですね。

無印BLUE GIANTの最後を飾る10巻。
締めくくりの巻では、もはやネタバレ感想ですら触れられないほどの強烈な物語が描かれています。

そしてこの物語であればこそ。
原作ファンは必ず映画を観るべきだと断言できる。

あれは間違いなく、原作を愛する人たちに向けたプレゼントですから。

(それも可能な限り映画館で観てほしいのですが、このレビューを書いている7月現在はほぼほぼ終映間際で、厳しいですね……)


正直に言えば、この10巻は映画視聴後に読んで愕然としました。

ページ数にして14ページ。
たったの1話。いや、1話にも満たない。

映画のクライマックスで描かれたあのラストライブは、本当に一瞬で過ぎてしまいました。
読んでいる際はむしろ焦ったほど。

「おいおい、残りページ数、どうすんだよこれ……!」
「嘘だろ、まさかこれだけなのか……?」

映画が描いたジャスのラストライブの模様はまさに名演。
私はあのライブを観るために18回映画館に足を運んでいますが、映画から入った人は私と同じく愕然としたことでしょう。

ただ、改めて読むと、この終わりもまたこの作品らしい。
この苦味もまた、本当にこの作品らしいと思います。

映画の脚本を担当した NUMBER8 さん(連載当時は担当編集で、今は Story Editor 担当)は「原作もこうすりゃ良かった」と述べておいでですが。
原作漫画と映画、どちらの物語もらしく、良い。
それぞれ違ってみんな良い。それで良いと思います。


映画では明示されていた大の行き先が、漫画ではぼやかされているのも良いですね。
シュプリームへの謎を残したまま、ヨーロッパ編突入、というわけでしょう。

また、おそらく映画は、一応シュプリームの映画化(または地上波アニメ化?)の構想があるのでしょう。
その含みのあるエンド、こちらもまたどちらも違ってどちらも良い。


最高の物語でした。
少し物悲しいですが、その切なさもまたジャズなのでしょうね。

BG7巻は、順調にステップアップするジャスの姿が描かれています。

彼らのバンド名である「JASS」の元ネタが明かされているのも目立つポイントでしょうか。
ノベライズ「ピアノマン」では彼ら三人が決めた際のシーンなども収録されていますが、原作漫画では観客の言葉として紹介されています。

また、この物語の大きな壁である雪祈の挫折が描かれたのもこの巻。
平さんは映画でも漫画でも強烈な存在感を示していて、まあ何と言ってもカッコいいお人ですよ。うん。


この作品の特徴ですけど、この巻もサイドメニュー的なエピソードが充実しています。

第50話「THE NEARNESS OF YOU」では、JASSメンバーが手にした初ギャラの使い道が描かれています。
第52話「AS TIME GOES BY」では、川喜多さんの後輩だろう停滞したバンド The Five が登場し、若きジャスと対比的に描かれている。

特に良いのが第54話「NIGHT RIDER」。
趣味でやってるトランペット好きのサラリーマンとの出会いは、本筋には何の絡みも無いですが、至極良い。
作曲に悩む大にとって、本当に大きな出会いだったように見えますね。


So Blue という舞台に向けた挑戦と挫折。
物語はクライマックスに向けて少しずつ助走を始めた印象でしょうか。

映画ファンとしては、雪祈と平さんのメールのやり取りが詳述されてるのは嬉しいところ。
雪祈、売り込みの文面ではありますけど、押しつけがましい若さのようなものが見えるのが良いですね。

彼が彼なりの覚悟を決めて立ち向かったのは確かですが、平さんがラスボス過ぎた。
初登場シーンとか、もはやサスペンスかホラーの作画じゃないですかね……。


今巻も楽しませていただきました。
巻末のハービー・ハンコック&ウェイン・ショーターへのインタビューなども興味深い企画。

正直、巻の感想が薄れた気もするくらい面白いインタビューでしたね。
良いんだか悪いんだか。(笑)

BG5巻では、ついに出会った雪祈と大がコンビを組み。
そして、さらに玉田がバンドへと加わっていく過程を描いた、腰を据えたバンド結成回になっています。

その意味では、この作品にしては物語の密度がやや低く見える感もありますね。
この作品は1話で複数の話を展開したりするほどに密度が高い。

ただ、それだけに、本当に腰を据えて三人の物語を描いている巻であるとも言えます。


映画から入った読者にとって、おそらく大きな驚きとなるのが、

「雪祈が映画以上にいきなり性格悪い!」

という点でしょう。
映画はこの巻に描かれている、女性が引きそうな場面を綺麗にオミットしてます。
この辺は女性人気の高いコナン映画を手掛ける立川監督の手並みだと思いますが、それだけに原作のどぎつさが目立ちます。
雪祈の悪行は数多く、

「チ○コ大の話を周りに言いふらす」
「言いふらすような気安い相手とは言え、喫茶店の支払いだけ女に押し付けて追い払う」
「女どもへの返信終了、などとのたまう」
「旧世代のジャズマンへの悪口」
「素人の玉田に対する当たりの強さ」
「玉田を追い出すために、自分が所属するジャズ研究会のドラマーを使い捨てにする冷酷さ」

ざっと見だけでも、「うわあ、コイツ性格悪っ」と思わせる力強さがあります。
でも、こういう性格の悪いイケメンって一定程度女性人気がある印象がありますが、ここまでくるとどうなんだろ……。(笑)


映画の視点で言うと、この巻では結構重要な違いも出ています。
出会いから、話すように誘い、バンド結成を誘ったのが雪祈の方というのは大きな改変でしょう。

また、そのジャズライブ時に共演していたのが名も無きジャズマンである、というのも一つの改変。
尺の都合でエピソードをガッチャンコしてある形でしょうね。
オールド世代の代表格だろうあの人の登場は後日に譲る形です。


というわけで、このシリーズで言えばかなり腰の重い一巻。
東京編を飾る出会いの物語ですね。

BG4巻で、ついに仙台を離れる大。
前半はその様を情感たっぷりに描き、後半は東京の街の簡単にはいかない険しさが描かれています。

大の台詞に「東京は…リアルだな」というものがありますが。
ここでの険しさは本当にリアルです。

お金のない、身一つで上京してきた夢見る若者にとって、東京は決して優しくはない。
玉田の家に転がり込んで、住処に困らなかったのは幸いにしても、バイトして給料が入るのは1カ月後で、練習場に据えた波止場もヤンキーのたまり場になってる。

映画では描かれなかった険しさがふんだんに描かれた後半でした。


ただ、物語としてはやはり、仙台編を完結させる物語の数々は本当に素晴らしかったです。

雪辱を果たしたジャズバーでの一幕。
家族に初めて聞かせる、閉店したスーパーでの演奏。
最後のレッスン日、レッスンせずに師匠が教えてくれた過去と、先輩から後輩への餞の言葉。
宮本大というブルージャイアントに求められた、最初のサイン。

まさにこの作品らしい情感の豊かさ。
結局恋人として、恋人らしい関係にはなり切れなかった三輪さんとの一幕もまた味わい深い。


また、東京編にしても、

「険しさがあればこそ、人情がまた深く染みる」

といった構造を取っているのがまたこの作品らしいというか。
屋形船の一幕などは実にこの作品らしい。
映画では屋台船は舞台背景として、原作ファンに「おっ」とニヤリとさせる程度の存在ですが。
彼の初ギャラへの喜びは、焼き肉屋での一幕という形で引用されています。


そして、第32話「PIANO MAN」。

東京編の主役とも言われ、映画では彼を主役に据えてはどうかと立川監督から提案があったほどのキーパーソン。
そんなピアニストとの出会いが描かれてこの巻は終了。痺れますね。
ノベライズのタイトルがこの回のタイトル、というのもまた渋い。

ここからさらに盛り上がっていく物語を示唆する、強烈な結末でした。
最高過ぎますわ……。

BG3巻では、前半に文化祭編を収録。
その圧倒的なパフォーマンスと、この巻では割と活躍している音楽教師の黒木先生とのデュオが光っています。

そしてそこでの反響を踏まえ。
仙台の地を離れ、勝負の世界に身を投じる覚悟を決めた大の姿が描かれた巻でもある。

映画を先に見た層から見ると、この辺の物語り方は「前日譚」的な要素を感じる気風もありますね。


この巻は全体的に、将来への期待と不安が交錯しています。
そして、先に進むがゆえに疎かにできない、色々な過去との決別も描かれている。
その象徴的なエピソードが「バーナムラブ」作曲でしょう。

私自身の経験を含めて、このエピソードはあまりに強烈に刺さりました。
18歳を迎えた大の初めての作曲という点でも重要ですが、やはり

「死は死でしかなく、残された者は受け止めきれない」
「音楽葬は、受け止めるためのクッションを与えてくれる」

こうした音楽そのものの価値に迫る内容こそが重要でしょう。
この写実的な描き方は、黒木先生が語る音楽の意義とリンクしている。

そしてこれらは、その世界で戦おうと考える大とも直接リンクしている風に見えます。

過去との決別という意味では、最後に置かれたジャズバー「BIRD」でのオープンマイクの回も大きい。
三度にわたって描かれたこのバーの完結編を、次への引きに置いている形でしょうね。


映画ファンとしては、大晦日の河原における大と黒猫の邂逅エピソードは味わい深い。
映画の冒頭に置かれたこのシーンは、実は映画と原作漫画とで描写が異なります。

この漫画上では将来への不安を雪の苦しさに仮託し、黒猫が羅針盤として機能している。
一方、映画では将来への期待を表すために(そしてここから展開する映画への期待を煽る為に)、ポジティブな反応を示している。

作中の状況が違い、シーンの役割が異なっているがゆえの変化。面白いですね。


今巻も文句なしに面白かったです。
星五つ、揺るがないなあ。

BG2巻では、メインとして仙台は上善寺のジャズフェスが描かれています。
この巻では初登場の人物も多く、特に映画ファンからすると、

「回想シーンでしか出ない師匠が、メチャクチャ師匠してる!?」

という点で結構ビックリさせられますね。
楽譜どころか、五線譜すらろくにわかってない状態で2年以上吹いてた大が凄いのか、そんな彼に出会ってくれた師匠が偉いのか……。(笑)


この巻もまた情報量(情感の量)が異常に多いのですが。
それでもメイントピックはやはり、上善寺ストリートジャズフェスティバルでしょう。
感化され、フェスの現場で(通りで)勝手に吹き始める大。
付き合わされたデート相手の三輪さんは溜まったもんじゃないですが(笑)、このシーンの作画は圧倒的です。

さらにその後、彼がサックスを手に入れるようになった経緯、でっかいお兄ちゃんのあまりにカッコよすぎるエピソードも収録。
宮本大がいかにして覚悟を決め、本物となっていったかを示しています。
本物であることを証明してからそこに到る経緯を描く物語り方は痺れますね。

さらにさかのぼると、後に大きな存在となる玉田の初登場のエピソードも伏線として効いている。
大の不安定な、はたから見れば先行きの見えない危うい進路。
そこに触れながら、腹を決めているその姿を描いているこのエピソードもまた良い。
これもまた、彼が本物である証明の一つでしょう。

さらにさかのぼった時、冒頭に置かれたジャズバー「BIRD」での一幕も、これがまた良いんだ……。
自営業者は誰だって、夢見た姿があったはずなんですよ。
それを思い出させてくれたこの一幕は、バーの店主である川西さんにとって、本当に大きな人生の一幕だったはず。
後にこうした物語が多く紡がれるこの作品の、そのファーストノートに見える優れたエピソードです。


すべてが有機的に繋がり、それでいてすべてが濃厚。
けだし名作です。
この一巻単体ですら、名作としか言えない。

6巻はジャス(JASS)というバンドが結成され、ファーストライブを経験していく過程が描かれています。
5巻から始まったジャスというトリオの物語は、無印BGの後半を飾る大きな物語ですね。

序盤、そして終盤にちょろっとだけ出てくる川喜多さんはそんなジャスのスケールの大きさを示す存在。
映画に比べると登場は限られますが、彼の存在は物語をよく盛り立ててくれています。


映画との違いを見ますと、やはり大きいのは焼き肉屋の顛末でしょう。
原作漫画では幸則が川喜多さんとのセッションライブでのギャラを使い切る、という目的で開かれた焼肉会。
映画ではこれが上手く有効活用されていましたね。

時系列も映画はセカンドライブ後であり、原作漫画ではファーストライブ以前。
こうした点なども、映画が「上手く原作のエッセンスをまとめた」と評されるところでしょう。

とはいえ、基本的には原作漫画の方が詳細に物語を語っているわけで。
映画ファンとしては、赤鼻のサラリーマンである望月さんの直接の言葉が聞けるのは嬉しいところです。
彼のような脇役キャラにも名前が付いているところは、実にこの作品らしいなと思います。

あと、ビラ配りのシーンは、映画の方が優しいのですね……。
雪祈がハッキリ「はっず!」と切って捨ててくれてないんで、なおさら居た堪れなさが増すというか……。(笑)


大きな物語はそうして展開され、玉田は絶望の中で出会った少年との会話で再起を果たし……とそうした具合。

その中で、サイレント映画のように展開した第42話「ONCE AROUND」は非常に優れた一話でした。
楽器店に来る人は、出会いもあり、別れもあり。

そんな悲喜こもごもを、台詞に頼らず描き抜いているこの一話は卓出している。

前半の焼肉屋の顛末が分かりづらいのがアレですけど。
後半部だけでも無料公開しておくと、きっと惹かれる未読者も出てくるんじゃないかなと。
そう思わせる魅力的な一話でしたぞ。