folioさんのレビュー一覧

どのお話も、音声作品ということが考えられている
シナリオと構成で、さらに全体として、疎外や離脱、逃避からくる
様々なモチーフが通底して、何回も周回して聞ける/聞くことになる構造になっています。

「波は語る」
思春期の少年の力みや解放が感じられる演技が素晴らしいです。
シナリオの、寓話に通じる波と島のイメージに、
これは大変な作品だと、姿勢を正した作品です。

「流刑王女」
本当にすごく…王女様です。テキストも演技も、王女様です(語彙)。
元王女である知的な観察と思考、そして咎人につながる感受性のテキストを、
王女であることを感じられる演技が、
情報量を何倍にも上げて圧倒されます。
王女である演技というのは、内言語の時は少女なのに、
会話になると、もはや必要ない公的なフェミニンさが出てしまう、
というようなことです。
王女マニア(何だそれは)の方にすごくお勧めしたい作品です。

「飛行列車」
静かな中、小さく火花のように煌めく感情が、
話され俯瞰されてそして向き合えるようになる…
これも演技とシナリオが素晴らしいです。
台詞の内外を表す環境音になっている空力音がすごく良いです。
変化と共に精神が段々と澄み切っていく感じがします。

漫画雑誌の読み切りの作品が、妙に記憶に残ったりすることがあります。
能動的な行動原理による物語は、聞く者に勇気をくれます。
少なくとも自分はこの作品を聞いて、より静かに現実に向き合えるようになりました。
おすすめです。

サークルさんの別作品「えろすか」が余りにも楽しかったので買いました。
S@G@2のパロディです。

オールカラーで高品質な4コマが、ひほうの数77個…
(+色々おまけ漫画)載っています。

絵がかなりいいです。すごくセンスある線で上手いです。
主人公達の、元ゲームでは名前や性別も変えられる、
ややモブいキャラ達をそのモブさを失わないまま愛らしく描いていて、
いつまでも見ていられます。

ギャグも原作への愛がありながらキレのあるもので、
ページをまたぐ繰り返しネタもあり、
また、ネームの間が絶妙なまったり系の風味もあって、
これも繰り返し読める再読性を高めてます。

原作愛が深すぎて、元ゲームをやっていないと面白さが分からない
ところもあるかもしれないですが、内容紹介のところでも見れる
「東に〇南に〇」ネタなどは、当時のタイルパターン上での移動RPG
あるあるで、RPGファンなら誰でも面白いのではないでしょうか。
(…って、これは今のRPGツクール作品でも再現されてますね。)

もちろん、S@G@2を遊んだ人にはおすすめです!
これだけの熱量とセンスとキレを持ったS@G@本は
そうそうないです。

SaGa(言っちゃった)大ファンの自分で、
二次創作物もかなり買ってきた自分ですが、
いいものが読めてめっちゃ嬉しかったです。

シナリオ、演出がとにかく秀逸です。
全体の緊密な構成もさることながら、一人称の語りながら、自然に様々な事柄が
織物のように織られていく精巧さが美しいです。

例えば、バイノーラルでヒロインに膝枕されて耳かきしてもらえるということから、
音源の移動はまああるでしょうが、シナリオ中で
膝枕されている側の視線は自然と水平になって、
そうやってヒロインに固定された頭部から見える風景に心情の台詞が入ってくるとか、
膝枕音声作品ということを製作者の方が本当に考え抜かれていて、
聞いていて本当に感動します。
作品の世界を作る姿勢は徹底されていて、同梱のテキストファイルからイラストまで、
何がしかの光るものが入れてあります。

そして、声優さんが凄いです。
演じられるのはどちらかと言えば意思の強いヒロインなのですが、雨の直前の
色調を抑えられた背景に対し、強烈なコントラストで強い印象を残します。

声優さんの演奏されているというフルート、これがまた「吹奏楽部の練習の演奏」に
なっているのが素晴らしいです。
最初から一気に引き込まれますが、その後繰り返されるロンドンデリーの歌、
少しつっかえたり、一部繰り返してみたり、十代の練習っぽさがたまりません。

特に高校までの学校において、別に何もない日何もない場所でも
強烈に心に残る風景、もしくは後から学校の前を通りかかった時などに、
眩暈のように心が疼く瞬間、それは多くの人が体験している
世界の謎の一つだと思います。

ただ、呈示されるのが刹那すぎて、
何だったのかすら良く分からないじゃないですか。
この作品では、いつでもそこに行けます。

今後も、この作品を繰り返し繰り返し自分は聞くでしょう。

耳かきボイスというジャンルに限定せずとも
1つの音の作品として実験作で意欲作で問題作で成功作です。
多くの人に聞いてもらいたい作品です。