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父が営むトウモロコシ畑を今日も今日とて駆け回るおてんばサム。
収穫期に訪れる出稼ぎ労働者たちとも仲良しだ。
ある日サムが案山子の根元に埋めた宝箱を掘り返していると、口がきけない大男が現れた。
過去の惨劇のショックで言葉を忘れた彼は、仲間内でサイレンス・ジョニー……だんまりジョニーと呼ばれている。
サムはジョニーと大親友になるのだが……。
(ホラー/ミステリー/短編)
イラスト:mink(@mink_171219)様
作者Twitterアカウント @wKoxaUr47xGeAZy
(作品の裏話や情報を更新しています)
someone(サムワン)
誰か。
あるいは大事な人。
皆がサムをおてんば《サムボーイ》と呼ぶ。トムボーイとサムを掛けた語呂合わせの愛称だ。
落ち着きがないと父は嘆き、困ったものねと母は苦笑する。
仕方ない、じっとしてるのは苦手だ。
探検がサムの生き甲斐なのだ。
今日も今日とて朝飯前の腹ごなしにだだっ広いトウモロコシ畑を走っていたら、目印の案山子男の所にきた。サムとおそろいの麻袋を被ってる。
「おはよ、ジョニー」
麻袋で覆面をした案山子に元気よく挨拶し、背後に回り込んで地面を掘り返す。ここに宝物を埋めてあるのだ。
土の中から出てきたクッキー缶には妖精のポストカードやスリングショットをはじめとするがらくたの数々が詰められている。カラフルなビー玉に銀玉、カートゥーンの指人形……一個一個取り出して並べていく。
一番底に畳まれた布はサムが赤ん坊の時に使っていた涎かけだ。
サム本人は覚えてないが、母曰く大のお気に入りだったとの事で宝物リストの末尾に加えることにした。端っこにはデイジーの刺繍があしらわれている。
無意識に郷愁を感じてデイジーの刺繍をなでる。裁縫下手な母が施したにしては出来がいい。
死角でガサリと音が立った。
「あぁ……うー」
畑の反対側から出てきたのは愚鈍そうな大男。
逆光になった目がぎょろりと動き、驚愕に固まるサムを見下ろす。
「あなたは誰?」
「うー」
「収穫の手伝いにきてくれたの?仕事の時間にはまだ早いけど、下見してたら迷子になっちゃったとか」
「あー」
この人、口がきけないんだ。
もどかしそうに呻く男に同情が湧き上がり、子供特有の衒いない好奇心で話しかける。
「僕はサム、このトウモロコシ畑は父さんのものなんだ。あの家に住んでるんの、見える?」
精一杯爪先立って指させば、男がのろくさく振り向いて目を眇める。
トウモロコシ畑の遥か彼方、木製の白い白い家。庭の木には父が作ったブランコがある。
「父さんは写真を撮るのが好きなんだ。この前ブランコで撮ってもらった」
「ごはんよーサム―」
伸び上がって振り仰ぐ。遠く離れたバルコニーに母が立っていた。
「母さんが呼んでる、行かなきゃ。じゃあね」
宝物を埋め直し、去りかけたサムを引き止める。なんだろうと向き直れば男が棒でスペルを綴っていた。
「ジョニーっていうの?」
「あー」
男が頷く。はにかむような笑顔にサムまで嬉しくなって、オーバーオールに擦り付けた片手を突き出す。
「よろしくジョニー。またね」
男もサムをまね、オーバーオールで拭いた手で握手を交わす。
「まだなのサム、パンケーキ冷めちゃうわよ」
「うるさいなあ、今行くってば」