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Cirkel | Spiral Moon |
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Utgivningsdatum | 25/06/2023 |
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Serier | Brand New Days |
Koppling | |
Författare | 飛牙マサラ |
Illustration | 石神たまき |
Ålder | |
Produktformat | |
Filformat | |
Andra | |
Språk som stöds | |
Genre | |
Filstorlek |
1,09GB
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- (4.52MB)
Produkt sammanfattning
Brand New Days3 トラブルは突然に3 見本文章1
何で、何でこいつがいるっ?!
胡(こ)◯しのぶは突然の事態に凍り付いていた。
有り得ない、有り得ない!
心の中で警鐘が鳴り響く。
危険だ、危険すぎる。
ただ、どうしたらいいか理(わ)解(か)らない――焦りだけが彼女を支配していく。
今日は久しぶりにフェンシング部の方に呼ばれてそちらの活動で遅くなったため、義(ぎ)勇(ゆう)とはいつもの薬学研究部部室ではなく、玄関口で落ち合うことになっていた。
急な変更だったので慌ててその旨をメールしたが、きちんと彼は『了解』という短い返事をくれ、それに応じてくれた。
義勇さん、メールをちゃんと見てくれてよかった!
部活を終え、着替えた後で待ち合わせ場所で然(さ)り気(げ)無(な)さを装いつつスマホを確認する。すると『もう直ぐ終わる』という義勇からの連絡が新たに入っていた。
時計を見れば確かに見回りも完了する時間になっている。だからぼんやりと出入り口で下校風景を眺めて待つことにした。
時折、帰宅する生徒たちと挨拶を交わしながらいつもとは違う場所での待ち合わせに何処かわくわくする。
気が付けば人影は既にまばらとはなっていたが、それでも部活などでちらほらと生徒の姿が残っていた。
まだ活動してるところもあるわね。ああ、もう直ぐ大会とかあるからか。
去年までの自分を思い出しながらそんなことを思う。
あの頃、こんな風に義勇さんを待っていられるようになるなんて考えもしなかったな。
今日のお弁当はどうだったですかね? 結構頑張ってみたんですけど。
いつでも努力しない日はないのだが、その日その日でやはり恋人からの評価が気になる次第だ。
自分で食べても美味しかったので、きっと彼も美味しかったって言ってくれるはずだ。
今日も旨かった――いつも必ずそう伝えてくれ、お弁当箱を返してきてくれるのが堪らなく嬉しい。
そうして学校を去っていくものが圧倒的に多い中、ふと校門を通ってこちら側に一人歩いてくるものがいることに気が付いた。
誰……? こんな時間に? もしかして誰かの親とかかしら。それとも先生からの呼び出しとか?
訝しみつつも何とはなしにその人影を眺めていた。
が、その姿がはっきり目に映った瞬間、全身が総毛立っていく。
う、そでしょう? 何かの間違いに違いない! いったい何が起きてるの?!
それがしのぶの正直な感想だった。
今、目の前に現れたのは今生になっても彼女が忘れられない怨敵であり、嘗て上弦の弐と呼ばれた鬼――童(どう)磨(ま)だった。そいつが何食わぬ顔でしのぶの方へと近寄ってきていたのだ。
私を探している男って……まさかこいつだってこと?
何のために?
しのぶの脳裏に疑問はぐるぐる目まぐるしく変わるが、答えになるものは何一つ出てこない。
だいたいが関わり合いたくもない、むしろ一瞬ですら会いたいとさえ思わない相手である。
間違いなくこいつは地獄に落ちたはずなのに……!
しのぶが自ら見届けたのだから間違いはない。それは確かだった。
だというのに上弦の弐が今、何故か彼女の前にいる。
体中がぞわりとし、もうとっくの昔に忘れたはずの感覚が蘇ってくる。
己を食わせる音が耳に響き、続いて体が取り込まれていく感触……
無惨城での戦いは決して楽なものではなく、実際にしのぶはカナヲに宣言したとおりに己が身を餌にして絶命した。
目の前に男がただいるだけだというのに、そんな前世での悍(おぞ)ましい戦いの果てに彼女がどうなったかをはっきりと思い起こさせてくるのだ。
我知らず自分が震えていることに気が付き、この場から直ぐさま立ち去ればいいのにそんな簡単なことすら出来ない。
それほどにしのぶにとって童磨の登場は衝撃が強かったのだ。
「やあ、お久しぶり! ええっと、君は確か、しのぶちゃんでよかったっけ? うんうん、間違いないね。正解だ」
だが、そいつは相手の様子など一切気にすることもなく、笑顔のくせに笑っていない顔で話しかけてきた。それもまるで以前からの知り合いのように親しげに、である。
私の名前を呼ぶな! 心の底から思う。
「どうしてお前が此処にいるっ?!」
そう叫ばずにはいられない。
まさか本当にこいつが私を探してたなんて――っ!!
彼女の脳裏に浮かんだのは今朝の出来事だった。
そう、そもそもの事の起こりは妹である栗◯落(つ◯り)カナヲからの情報からだ。
「え? 私を探している男がいる? どういうこと?」
カナヲがそんな噂があるとしのぶのクラスにまでわざわざやって来て知らせてくれたのだ。曰く誰かが学園の生徒の一人を捜していると。
「はい、どうも探しているって言う学生の特徴が姉さんそのものらしくって。詳しいことは私にも分からないけど、何でもここ数日、学校付近で嗅ぎ回ってるみたいなんです。それで実際に何人か怪しい男に聞かれたって。それで偶々その中に私の友人がいて私に教えてくれたんですよ。もしかすると姉さんのクラスの人にもいるかも知れない」
前から他校の生徒からもアプローチされたこともあったのでそんなことも有り得るかもとは思ったが、知らぬところで誰かに探られるのはあまり気分のいいものではない。
義勇との日々に浮かれていて、学園内の噂などは殆ど気にしてはいなかったせいか、しのぶは全く知らなかった。
「……変なのがいるのね……そう」
少し考えてみるも心当たりは当然無い。
「それで友達が言うにはその相手がやたらイケメンではあるけど胡散臭い軽薄そうな男だったって」
「へえ、胡散臭い……」
「はい、姉さん……」
その前提で一瞬思い付くのが二人とも同じ人物……
「まさか……ね」
だから異口同音にそう言っていた。どちらもそれは有り得ないと思っているのだ。否、有り得ないで欲しいと言うのが正しいか。
「と、兎に角、姉さん気を付けて。早く冨◯先生に相談した方がいい」
何(ど)の道(みち)、誰かがしのぶを探しているのは事実らしいので確かに義勇に話したほうがいいのは間違いない。
「うん、有り難う。そうするわ、カナヲ」
が、時計を見れば残念ながら始業時間が迫っていた。
今からじゃちょっと無理ね。
放課後、義勇さんに相談してみよう。
そう決めて一先ずその件については忘れることにした――はずだったのに。
それなのにまさかこんな早く遭遇する羽目に、しかも義勇へ相談する前だというのに問題の男がやって来るとは流石に思わなかった。
気が動転するというのはこういうことを言うのだろう。何をどうしたら良いのかまるで分からない。
いつもの彼女が持っている冷静さは今や完全に失われていた。
「上弦の弐――っ! 何で此処に――っっ!!」
漸く絞り出せたのはそれだけだ。そもそも童磨が何を思って此処にいるのかが理解不能なのだから然も有りなん。
「おやおや、酷いなあ。童磨ってちゃんと呼んでおくれよ。うーん、俺、名乗ったんだけどなあ、あの時も」
見覚えのある、中身のない笑顔で男は答える。心外と言った風を取ってはいるが、本当にはそう思っていないことは明白だった。
「お前の名前なんてどうでもいい! 何をしに来た? だいたい此処は学校で、学生でも何でもない奴が入って来るな!!」
常識などない相手に言っても無駄とは思ったが、言わずにはいられなかった。知らず知らずその場を離れようとするが、相手は当たり前のように彼女に付いて来ようする。
「付いてくるな! 今直ぐ帰れ!」
しのぶが必死にそう叫んでものらりくらりとした様子のままで暢気な言葉を続けた。
「いやあねえ、何となく昔を思い出したからね、ちょっとばかり懐かしいから探してみただけなんだけど」
それは当(まさ)に適当で、しかししのぶの気を逆撫でするには十分過ぎるものだ。
「そんな理由で人を探すな! それ以上近寄るなっ!」
童磨が当たり前のように彼女の側に来ようとするので断固として拒絶しているのに全くそれがこの男にはまるで通じていない。
「あれえ、つれないね、以前はあんなに激しく抱き合ったのになあ」
彼にしてみれば単なる一時の思い出、彼女にとっては最悪の記憶――認識の違いがあまりにも顕著だった。
「私はお前になんて抱かれてない! 抱かれてなんているものか!!」
私が抱かれたのは、求めたのは今も昔もたった一人だけ。その想いを汚すような真似、許せるはずもなかった。
だが、同時に鮮明に蘇るのは最期の記憶――先ほどよりもより明確に自らの死へと誘(いざな)った嫌な感覚がしのぶを支配していくのを感じた。
今一度、耳障りな音が鳴り響く。それは骨の軋む音、食われゆく肉――取り込まれていった自分の姿が何故か彼女の脳裏に焼き付くようにまざまざと浮かんでくる。
ああ、いったいそれは誰の記憶なのだろう? 自問自答してもそれは勿論しのぶ自身のものに他ならない。忘れていたものが呼び起こされる、そんな感覚が蘇っていく。
ただ如実に最期に己がどうなっていったのか思い知らされるには十分すぎる記憶が彼女の中を駆け巡った。
「あ……」
思わず自分を抱き締めるようにしのぶは震え出す。
嫌だ、嫌だ――怖い、怖い。
誰か誰か……来て……
そう思うが、既に人気の少ない学校でそんなに誰かが都合よくは現れないことは理(わ)解(か)っている。けれどそれでも心の底から愛しい人を想い、願わずにはいられない。
義勇さん! 義勇さん!! お願い、助けて――っっ!!
だからしのぶは今一番この場に来て欲しい人の名前を心の中で強く叫んだ。
Brand New Days3 トラブルは突然に 見本文章2
冨(とみ)◯義勇はいつもの見回りを終えて直ぐさま職員室に戻ろうとしていたところだった。が、戻り際まだ教室に残っている生徒を見つけたので彼らに帰るように促さねばならない羽目になる。
しのぶが既に玄関で待っているから早くそちらに行きたいのだが、流石に職務を放棄するわけにもいかない。
「お前たち、もう下校の時間だ。部活でもないのだろう」
がらりと扉を開け、教室に入ると生徒たちは忽ち慌て出す。どうやら下校時間を失念していたらしい。特に酷い違反してはしていないようだが、それでも時間は時間だ。彼は彼の仕事を熟(こな)していくのみである。
「げ、トミセン」
「話に盛り上がってただけだよ?」
言い訳めいたことを言う生徒に向かって彼は呼び名だけを訂正した。
「誰がトミセンだ。冨◯先生だろうが、ちゃんと呼べ」
とっととしろと義勇が促せばぶつぶつ言いながらも生徒たちは帰り支度を調えていく。
「へいへい、冨◯先生」
「もう少しくらいいいじゃないですかあ」
それでも文句は言いたいらしく少し不貞腐れた様子で生徒の一人がそう言ったが、当の教師は取り付く島もない。
「規則は規則だ」
毅然とそう言う義勇に対して生徒たちはそれ以上は逆らうことはせず温和しくそれぞれの鞄を手に取り、彼に挨拶しながら教室を後にした。彼らとて融通が利かないことで有名な男相手に挑むほど馬鹿ではない。尤もその堅物が最近幾分雰囲気が和らいでいないかとまことしやかに囁かれている。現に今も対応が彼にしては普通だったと義勇には聞こえない声でそんなことを話しながら彼らは帰っていくのだった。
ちゃんと生徒たちが教室を去ったのかを確認しつつ、ふと何やら外が騒がしい事に気が付く。
「何だ?」
教室の窓から覗き見ると眼下にしのぶがおり、そしてその側に見知らぬ男がいた。明らかにしのぶは避けており、それを無視して男は近寄っている。
「近寄るな!」
しのぶの強気で、しかし脅えている声が聞こえた。
状況は飲み込みきれないが、彼女の身に何か起きていることだけは理(わ)解(か)る。
「しのぶ!」
だから此処が何処であるかも忘れて恋人の名を呼び、教室の窓を乱暴に開けた。すると彼女が振り向くと今にも泣きそうな顔をして彼の名を呼び返してくる。
それを聞いた次の瞬間、義勇は何の躊躇いもなくその場から動いていた。
今は一刻の猶予も許されない!
それだけは間違いない事実だった。
‡ ‡ ‡
ふと自分を呼ぶ声が聞こえ、しのぶが声の方へ顔を上げると今一番逢いたい人がそこにいた。
校舎の二階から酷く焦った顔した義勇がおり、彼女の名を呼んでいたのだ。
「とみ、◯かせん……ぎ、義勇さん……っ!!」
しのぶがそう叫んだ途端、彼は一瞬の逡巡も見せずその場から颯爽と飛び降りたかと思うと、体勢を崩すこともなく着地した。そして直ぐさま侵入者の前に立ち塞ぎ、二人の距離を空けさせる。次いで手に持つ竹刀を向けて相手を睨み付けた。
「――何者かは知らんが、こいつに近寄るなっっ!!」
唐突な不審者の登場に警戒しないわけもない。ましてや愛おしい恋人に来向かう不埒な輩だ。
が、義勇の攻撃的態度に対して相手の答えは暢気そのものと言えた。
「……へえ、君は初めて見る顔だね。いやあ、はじめまして?」
そう、童磨は水柱たる義勇に会ったことはない。しかし彼の行動だけで彼が何者なのか看破する。
あそこから躊躇いもなく飛び降りて。ふうん、ってことはこの男も元は鬼狩りか。恐らく柱? にしても凄い、凄い。今は鬼狩りでもない、ただの人のはずなのに。
故に彼なりの感嘆の意を込めて拍手を送ってみせるが、それは相手方には巫山戯た行為にしか映らない。
「何のつもりだ、貴様?」
当然のように殺気を漲らせ、義勇は問う。目前の男が何者かおおよそ見当は付いてはいるからこそだ。予想どおりだというのなら……そう考えていたとき、少女が答えをくれた。
「ぎ、義勇さん、上弦……」
震える声でやっと告げ、恋人の背中にしがみ付く。来てくれた、来てくれた! 強く思いながら。