かもがわでるた的鑒賞一覽

わたしが音声作品に求める要素の1つに「逃避」がある。
たとえば、一人ぼっちで過ごすワンルームから逃れたいだとか。
"嫌なことから耳を塞いで"イヤホンの内側へ逃れることができる貴重な媒体だと思う。

さて、今作、宮本侑芽さん演じる七海凛さんとの時間は間違いなく「逃避行」だった。
実家で羽根を伸ばすというテーマで、「あの頃で時が止まっているような少女」となんだかそれらしいことをする。

スイカを切るのを眺めたり、一緒に海辺を散歩、服を来たまま海へ入ってーー。
大人になってからは忘れていた夏のスイカの匂い、存在しない砂を踏む感覚にも襲われる。
これらが間違いなく「逃避」であった。ありがとう。

洞窟という隔絶された世界で二人ぼっちに時間を過ごす。
特にわたしはこちらのトラックにハマった。洞窟の反響と水音が要素としてかなり美しかった。

・洞窟の反響
ずっと凛の声がかすかに反響していた。故に耳に残り、なんだか心の印象に残り続けた。
リバーブのかかった声優さんの声を長時間聴くという体験をあまりしてこなかった人生なので、新鮮で忘れられない時間となった。
ちなみに風呂入ってるときもこれで「助かった!」という感じだ(!?) 声にリバーブがかかると良い。

・水音
海へ潜る時にぶくぶくと水に包まれる音に包まれる。
こちらも"逃避"だが、自分と世界の間に「水」というたしかな膜が生まれたことで完全に社会と断絶されたようだった。
わたしはこういう時に幸福感を感じるから、そういう趣向に覚えがあるならぜひ聴いてほしい。

正直、出演声優さんが初(個人調べ)の音声作品というのが主な目当てだったが、しっかり楽しめた。
声優さんのどこかナチュラルな要素を残す相槌や笑い方に含まれるニュアンスに唸った。

いや、「おんなじ匂いしてるかもね」からの「私たち遺伝子レベルで相性が良いみたいだよ」は最強のセリフ運びだろうが!!!!!

彼女の純真で儚げな声色を聴いていると、添い遂げてあげたい気持ちになります。
首輪をはめることで私がペットになる、そこ主従は人間同士では普通でないことに気づいていながらも、そこがとても居心地良さそうで、彼女の幸せに寄り添いたい気持ちに傾いて、気づけば首を縦に振りました。

彼女…主の言葉を聴くたびに心の奥のざわめきが止まらない時間でした。彼女が笑ってくれたらそれでもいいかなと思って、思えたことが幸せでした。
素敵な体験になりました。ありがとうございました。

百合体験という名の通り本作は自分がどのような性別であろうと、作中の「あなた」となり、彼女とのデートを楽しめる体験型音声となっております。
本作はその挑戦として「あなた」の「感情」が音となって表現されていますが、この表現にとても惹かれました。
それは心音や呼吸といった現実的な形ではなく、氷の割れるようだったり水がはじけるような比ゆ的な音から構成されています。これでは没入できないのでは?という予想に反して、音が聴こえるとそちらに喜怒哀楽が吸い寄せられるような不思議な感覚に陥ります。ぜひ試聴をお試しください。
たとえばアニメーションでは心情と天気がリンクして表現されることがあります。悲しさを表現するシーンで雨が降っているとさらに心を締め付けられる、そんな感覚に近いでしょうか。
そういった感情表現のうえ、声優さんの演技は地に足のついたリアリティを重視された演技だったと見受けられます。自然に明るい朱花の声がそのまま届くので、パートナーの前で無邪気にはしゃぐ彼女の隣が幸せだと感じられます。こちらも試聴を……!
散文的となってしまいましたが、「感情を音にする表現」と「実在性」によってリアリティが増強されてとても楽しめる作品となっております。
音像定位の良さ以上に「隣」にいる彼女に恋をする感覚を多くの方に楽しんでいただきたいです。
年齢不相応なブレザーを着て制服デートへ繰り出す、そんな体験をしてみませんか?

こりすさんはずっと丹下桜さんのファンでこの作品は素敵な思いから出来ているというお話をSNSで知りました。
2022年のDLsiteアワード受賞作は拝聴しており、サークルさんの作る音も好きだったことから購入させて頂きました。
何より女の子が可愛いのに尽きる作品です。素晴らしい!
聴いている側とお狐さまの関係性がわかりやすくも自然な言葉運び、そこから姉狐の登場に少し疑りながら聴くというのも、
作品独特の体験でとても楽しかったです。
耳かきの音は優しく丁寧で、かといって鳴りが悪いわけではもちろんなく、「癒しの森の家」様特有の声を邪魔しない、声を引き立てる素敵な音響でした。
あと、ホント、オノマトペが可愛かったのでそういうの好きな人はぜひ……

ここ数年で様々な方面で躍進されている立花日菜さんが声グラさんから音声作品を出した!ということで勢い余って購入しました。
2人きりの空間を大事にしているもののけぼっくすシリーズですが、山奥の小屋で二人きりというシチュエーションから没入感と非現実性が補完されており丁寧な作品に仕上がっています。
キャラクターとしてはツンデレに含まれるのでしょうか。いや、ツンというほど強い拒絶ではないかもしれません。Sっ気であると称される言葉の端々に滲み出る"お兄さま"への好意に背徳のようなものを感じられて、グレッタと私の対話が展開される流れはASMRの体験かくありきという感じでした。

グレッタのこのSっ気な台詞に含まれる優しさのニュアンスは立花さんが丁寧に演じられたからこそ生まれているものだと思いますし、だからこそ最終トラックにかけて変化していく彼女の態度にドキドキしました。良作かと思います。

こちらの作品は催眠音声をいろんな人が楽しめるようにと作られた音声作品です。
つくりも良く催眠にもかかることができ満足、というのが所感でしょうか。

催眠音声は効果に個人差があるため正直レビューというのはあまりあてになりません。しかし、あくまで僕はですが、催眠音声は自転車のようなものだと思っておりまして、ほとんどの人は練習したらある程度まではできるものだと思っています。
自転車乗りたい人に自転車の教科書って助けになっても本質的に意味はないですよね。そういうことです。
そういった中でいわば補助輪の役目で出されたこの作品はコンセプトの時点で好意が持てます。
催眠を補助する満足なボリュームで、僕はこれを聴いて普段より深く入ることができました。

催眠状態にかかることが目的で、いわゆるその後の快楽を求めていない人にも強くオススメします。
催眠にかからなくて悩んでいる人なんかはぜひ購入を検討してはどうでしょうか

バイノーラルマイクさんと石見舞菜香さんを組み合わせようと考えた人はたぶん天才だと思います。儚げでありながら慈愛に満ちた声質な方なので本当にこの手の作品とよく合います。
シチュエーションも変に曲がったことをせずドストレートな流れにすることで耳を傾けやすく、強い中毒性が生まれています。甘えていいんですか…

個人的な一押しはその後の甘恵さんと一緒におやすみできる寝言&寝息の音声。破壊力の化身。寝息パートは10分弱なのですが、これを聴き終わるごろには寝られるぐらい安心します。1時間ぐらい欲しいなと思うほどハマれるパートです

甘恵さんのような声質が好きな方には間違いない音声作品なので、ぜひ試聴をして購入を考えてほしいです。

ぶっとんだ世界観の中で「部活動」という微かなリアルを残している設定の選択がとても上手い。
なんで耳かきされているの? ささやかれているのか?
耳かき研究部に体験入部しているからです。
これさえわかれば「君は人より耳かきが心地良いタイプかも!」と言われたら、耳研部の部長が言うならそうだよな!となります。そんなもんです。

ちょっとふざけてるように見えますが、世界観に入り込めるかどうかで没頭度が変わってくるためこのわかりやすい提示はとても重要です。
やんちゃな性格でたまに茶目ッ気を出していじってくるところ、ふとももをくすぐったそうにして照れる反応、きちんと耳かきの文化を教えてくれるところなどの要素は提示した設定にどことなくリアルな説得力を与えてくれます。

そしてこの世界観を支えてくれる可愛らしい先輩のお声。
優しく甘くまさに耳がとろけるようなお声です。そんな声音に全肯定されながら耳かきされたら、まあ疲れが吹き飛びます、本当に。
ありがとう、長縄まりあさん。

耳かきに対する音も耳かき研究部の名に恥じないくらい丁寧な音作りがされています。マッサージや梵天、ふーふー、心音吐息など、ボリュームもたっぷり。でも耳かきがメインなのはブレない。一貫性があって好感がもてるぜ。

ここまででちょっとでも気になったのならオススメできると思います。
耳研部に入部しませんか?

声と音どちらにフューチャーしているかというと耳かきと銘打っていることもあり、耳かき音にこだわりが強い作品と感じます。
耳かき音声がはじめての人や、僕がそうだったのですが、耳かき音声が苦手で敬遠している人にこそ聴いてほしいです。

浅い部分からゆっくりと慣らしていくように耳かきを深くしていきます。
やはり音を作っていますから、こんな音しなくない?とか思っちゃうと心地よくなれないのですが、この作品はここの加減が本当に上手い。
ていねいにていねいに慣らして”これが耳かき音だよ”と脳に焼き付けた後に、ご褒美として奥の方をガリガリとかいてくれます。
この流れのおかげで、最初から最後まで右肩上がりで気持ちよくなれます。

お上手な声優さんが起用されているため、耳かきの隙間を埋めてくれる声にも抜かりありません。
しまいの梵天(耳かきの後ろにあるタンポポみたいなやつ)とお耳ふーふーも忘れずにアフターケアまでしっかり。心をガッツリつかんでくれます。

耳かき音声としては文句のつけどころがないと思います。

あ、この声優さん、ASMRをするために生まれてきたでしょ?
と錯覚するほどの優しい声音で私を優しい世界へと導いてくれます。
ASMRを名乗っているだけあり、ささやきと効果音のバランスもちょうどよく、自分がどんな音フェチなのかわからない初心者の方も安心して聴ける構成になっています。

バイノーラル録音というのはたしかに素晴らしいです。
しかし私が推したいのは「演技派の声優さん1人の演技を何十分も贅沢に聞けること」に尽きます。
途中でシャム猫娘さんの息遣いとか言葉のリズムとかわかってくるんですよね。これを理解した瞬間に彼女と親しくなり距離が縮みます。(そんな気分です)
そういう技量に感嘆してしまうぐらい、素晴らしい演技でした。
あがこうにも優しさを拒められません。お母さんになってくんねえかな。

ここからはネタバレですが、彼女の何がすごいかというと、「私は一生懸命に頑張らないよ」と途中で宣言してくれるのです。
「わたしがんばっちゃう!」と意気込んでくれる音声作品では、たいてい「俺は果たしてこの娘にこんなにしてもらう価値がある人間なのか…?」と不安になってしまいます。(こういうのを聴く人間はだいたい疲れているので)

だからこそ、先程のひとことは不親切に見えても、僕らを気負わせないための優しさとなってくれるのです。

とまあ、演技、台本、効果音が優しさをまとってぼくらを導いてくれる本作品は社会に疲れてる人にこそオススメできます。いや、この言い方も優しくありません。
だれかに優しくされたいという人…つまり全人類にオススメです。