月社妃。死んでも尚、俺の人生における足枷となり続けている。前を向いて歩こうとしても、月社妃の顔が脳裏によぎり、たちまち進む気力も前向きな気持ちもどこかへと去って行ってしまう。いつもそうだ。頑張ろうとしても、月社妃の顔を思い出しては立ち止まりそこでうずくまってしまう。”もう一度会いたい。もう一度でいい。月社妃に会わせてくれ。”そう願い続けたからか、その願いは偶然にも叶ってしまった。間違いはそこから始まってしまったのだろう。そう、月社妃に会ってしまうその事柄自体が間違いなのだ。だからこそ、月社妃は「こんな場所で出会えるはずが」と言い淀んだのだろう。しかし、会ってしまったことが間違いであろうとも、月社妃に会えたことは俺にとっては喜ばしいことで、この機会を逃してはならないと思ったのだ。恋人らしく仲睦まじい状態での登校、一緒の教室での授業、教師にバレないように悪戯をしあい、そうして放課後の夕焼けの教室。そんな学生らしく、今までの俺たちではできなかったことをし合って、まるでいつもの日常のように振る舞う。いや、これが俺たちの日常だったのだろう。どこか、懐かしい気持ちにもなる。そうして授業も終え、放課後の教室から夕焼けを楽しんだ後は俺たちにとって欠かせない図書館へ。
図書館で二人で静かに本を読むこの時間。これこそが、俺たちの真の日常。何十ページか読んでふと顔を上げると、そこには真剣な目で本を読む月社妃。その視線に気づいて微笑む。ここまでがいつもの日常なんだ。それを失うわけにはいかない。そのはずだったんだ。
そのはずなのに、月社妃は終わりを告げる。この時間が俺たちのあるべき形なのに。例えお前が幻であったとしても、お前がいなくては俺は生きていけない。なのに俺に別れを告げようとするのか。お互いにどれだけ重い合っていたかは知っているのに。この時間を続けようとせずに、終わりを告げてしまうのか。俺は・・・