耳元から聞こえる珠のように美しい声。雨音などが耳に入ることがあっても、透き通る声の存在はあまりにも大きく、それは環境音に過ぎなかった。間違いなく、カヨコの存在がそこにあったのだ。
恋人かの如く近い距離間、照れたように少し早くなる口調はカヨコの紅くなった頬を想起させる。汚れた部屋の掃除をしてくれるその声は正しく彼女のような風格で、呆れたような顔が目に浮かぶようだ。つぶやく独り言も、響く足音も、美しく鳴る鼻歌も、ふとした瞬間の小さな笑い声も、驚いた声も、それらすべてが愛しく心が躍るようだった。
所作の一つ一つが想起されるほどにリアルで温かい二人の距離感が直に感じられ、小さな呼吸音からも読み解くことのできるカヨコの優しい想いに包まれて過ごす時間のどれだけ幸福なことだろう。
幸福感に包まれながら眠り、感じるカヨコの存在は他のどんなものでも代用が効かないほどに温かい。
替えの利かない甘美なひと時を、間違いなくカヨコとともに過ごしたのだ。