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オリジナル小説です。ある国の夏の物語。
それは伝統行事であり、天からのかけがえのない贈り物だというのです。
Rosellez〜ローゼルツ〜
ローゼルの時間、ないしは初期加盟諸都市の頭文字になぞらえて作られた造語で、ローゼルツという。この帝国の正式名称だ。
帝都ローゼン、自由都市リーブルヴィル、リーヴェ侯国、エーデルラント両王国、ツァイト……すなわち時間という意味の言葉。
時間を共にするという意味では、我々はよく団結した。ときに衝突もしたが、結果的にはすべては必然であり、過ちではない。
エーデルラントの荒涼とした山々の頂にはエンシェントドラゴンが住まい、この国を守護したものだし、淡い金髪にアメジストの瞳を持つ女神はエーデルラントの象徴であり、好んで芸術作品に顔を出した。
エンシェントドラゴンは聖王にこう言った。我々の心は一つだと。
それは時を経ても揺るがない。エーデルラントの山々にエーデルヴァイスの花が咲く頃、私は下界に降りよう。
お前の末裔を祝福しに……。そうだな、その時は、ローゼルで作ったハイビスカス・ティーと夏の薔薇の咲き誇る王都ローゼンをもって出迎えてくれ。
時がたち、時代が移り、王国でなくなるときがやがて来る、お前の末裔は君主ではなく、一人の自由な市民として過ごす時代も来るであろう。
だが、それでよいのだ。永遠に召使にかしずかれる一族など私は見たことがない。
お前はお前に出来ることをし、民を愛し、永遠の輪廻の中でやがて平穏を見るであろう。
私はエーデルヴァイスの花を歌った麗しい愛の詩のように何度でもお前に挨拶しよう。
エーデルラントにエーデルヴァイスが咲く頃、お前に会いに向かったときに。
そうして生きよ。この国に。
王家の印に装飾された一冊の本にこう書かれているのを時の皇帝、ラインハルト・テオドリヒは眺めていた。
窓辺にはエーデルヴァイスの花々が10株以上も咲き乱れている。
ツェザーブルク宮の皇帝居室の窓を飾る花はエーデルヴァイスに鈴蘭とミニバラの寄せ植えだ。
「この部屋には今、ローゼルがないな」
ラインはそうこぼすと苦笑した。
そうして部屋を出て、ローゼンの街へお忍びで出る。ローゼンの夏祭りを楽しむのが目的だった。
彼は街に出ると酒場のビアガーデンでビールと白ソーセージ、香草のソーセージ、ザウアークラウトの盛られた素朴な食事を取る。
そうして街を練り歩き、街の様子を眺める。人々の笑顔は彼のクールな性格でも心に響くものがある。
エーデルヴァイスの花が咲く頃、その開花を祝って行われる夏祭り。この国の国花であり、天使の贈り物の伝説を持つ花ゆえ、祭りではその天使が扮した人間の乙女が毎年選ばれる。
まだうら若い乙女が街を歩き、この国を祝福する伝統行事は、今年も変わらない。
彼は夏の祭りを楽しんだのち、湖の城ツェザーブルク宮に戻った。
祭りの影響か、皆の表情もどこか明るく映る。
メイドのセドリクは彼が戻ってきてから、ローゼルのお茶をラインに出した。
「ローゼルだ……」
ラインは従妹がいれたハイビスカス・ティーの香りを嗅ぐ。ふっと薫るは南国の香り。
紅い紅い薔薇のような色の飲み物に口をつける。
「エーデルラントの夏は短いけれど……とびきり素敵な季節ね!」
「ああ」
聖王の末裔もいる、そう付け加えて。
「わたしのこと?」
セドリクはほほ笑む。
「他に誰がいる」
ラインはあまり笑わない男だが思わず笑った。
その時、エンシェントドラゴンは湖の城の頂に羽根を休め、舞い降りた。
この国の行く末を見守りに。
20周年特別付録にEIN GLANZ全年齢版を同梱。この機会にぜひどうぞ。
この作品は「EIN GLANZ (novel)(RJ080146)」と一部内容の重複があります。