満開の桜たちの中をまっすぐに歩いていた妖夢だったが、やがて一本の木の下に着くと立ち止まり、幹に手を添えてその枝の先を見上げた。
「わぁ、いつのまにかこんなに蕾が膨らんでいたんだ。この前の異変のせいでお屋敷の仕事は放ったらかしだったからなぁ」
周りと同じ桜の木だが、その木肌は周りの桜たちに比べると若々しく、おまけに一本だけ花を咲かせずまだ蕾の段階だ。しかし、その木を愛おしそうに眺める妖夢。
「私が生まれた日にお爺ちゃんが植えてくれたソメイヨシノ、白玉楼の庭で唯一本だけの生きている桜の木。あと少しすればこの花も開くわね、できればお花見はその時にしたいな」