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「この人はどっちだろ。幸せな側かな、そうじゃない側かな」
生理不順の友人の付き添いで婦人科を訪れた霊感の強い中学生、サチ。
産婦人科を併設する待合室で気まずい思いをしていた時、向かいのソファーでうなだれる女性に気付く。
彼女の傍らには水子の霊が浮かんでいたが……。
霊感持ちの女子中学生が主人公の短編ヒューマンストーリー。
挿絵はシロワニさん(@shirowanisan)に描いていただきました。ありがとうございます。
作者Twitterアカウント @wKoxaUr47xGeAZy
(作品の裏話や情報を更新しています)
病院て気が重い。
特に産婦人科は。
なんていうか、明暗がハッキリ分かれてる。幸せと不幸せがグループ分けされてて居心地悪い。油と水みたいに、平行線の空気が二層になってるのだ。
待合室は清潔で快適、緑色のソファーは弾力があってプリーツスカートに包んだお尻がほどよく沈む。
産婦人科に来るのは初めてだから他と比べてどうこう言い辛いけど、ソファーの島々の間にマイナスイオンを醸し出す観葉植物がセンスよく配置されて、存外雰囲気は悪くない。
それも周りを見なければの話だ。
木製のラックには絵本や週刊誌、ひよこクラブだかたまごクラブだかの育児雑誌が大量に挟まれて、幸せそうな若い女の人が読み耽ってる。大きく膨らんだお腹の妊婦さんが楽しそうにお喋りする横で、まだ幼稚園にも行ってなさそうな男の子が指をしゃぶってる。
反対側のソファーにはプリンカラーの髪によれたセーターを着たギャルっぽい人や、暗い顔で俯くうちのママと同じ位の人がいる。
「ごめんねサチ、無理言って付いてきてもらっちゃって。あたし一人じゃ来にくくてさ……」
隣の声に振り向く。同じクラスの友達のさなが、申し訳なさそうにうなだれてお腹をさする。私は「別に。ダチのよしみっしょ」と首を振る。
「だいじょぶ?お腹」
「うん……ううん。クスリ飲んだんだけど全然きかない」
「体質に合わないんじゃない?」
「だって始まった頃からずっと飲んでるんだよ?」
「耐性ができちゃったとか」
「そうかな……そうかも。詳しいことは診てもらわなきゃわかんないけど」
ほっとしたように一息、感謝のまなざしで見上げてくる。
「あんがとねサチ。こんなことあんたにしか頼めない」
「さなの生理が重いの知ってっし」
「ちゃんと診てもらわなきゃって思ってたけど誤解されんのやだし……うちのガッコの人とか先生とかさ、入るとこ見られて変な噂広がるのいやじゃん」
「さな真面目ちゃんだし、ちゃんと説明すりゃ大丈夫っしょ」
「説明すんのがやなんだって」
それはわかる。
生理不順を診に来てもらいにきたなんて、多感な女子中学生の口から弁解するのは荷が重すぎる。
さなとは小学校からの長い付き合いだし、体育の時間もお腹をさすって辛そうに見学してるのを知ってるから、「放課後付き合って」と思い詰めた顔でお願いされた時も、「いいよ」と軽く引き受けた。
私は友達から借りた漫画の単行本を膝において首を傾げる。
「てかさ。うちの人に付いてきてもらうんじゃだめなの」
「共働きでどっちも帰り遅いし……親連れてこんなトコ出入りするの見られたら恥ずかしい、もっと大ごとになる」
「そんなもんか」
「けど一人じゃ心細いし……その点サチなら帰宅部で暇だし、実は頼まれたら断れないイイ奴設定だから狙い目かなって」
「わたしゃ消去法か」
「ごめん、ツンデレ設定に言い直す」
「そこじゃねえ」
友達やめるぞコイツ。