タケハラシグレさんのレビュー一覧

自殺したヒロインの生き返りというショッキングな展開から始まる本作。作者の他の作品でも見られるメルヘンとグロテスクの混ざり合いが魅力的な作品です。
ゲームシステム的には「狂気的な演出」に繋がる選択肢が明確に分かるシンプルなシステム。チャプターごとにヒロイン視点の裏話が見られます。これらを見ていくと違和感が少しづつ積み重なっていき……。
狂気の愛を全肯定というキャッチフレーズを貫いた作品。

とある理由からASMR部をどう扱うか悩んでいるつるぎ風紀委員長とASMRについて勉強していく作品です。
最初のほうから割りとのりがいい委員長が印象的です。
意外な人間関係、とんでもない委員長の特技、主人公に降りかかる悲劇(?)など紆余曲折を経て、トラック9で得た最終結論は前向きなものです。
演じられるLynnさんが委員長の多面性を魅せてくれる作品です。

甘やかしを甘やかしじゃない、友だち・幼馴染なら当然の距離感と言い張る少女が送る癒し音声。
なんですが、添い寝トラックで判明した本音からすると、「周りの友だちが言うような恋愛は分からない」「けど「俺くん」に恋人が出来るのは嫌」という複雑な心境が背景にある様子。
もしかしたら距離感が近いのは幼い頃の関係のままでいたいという願望があるからかもしれませんね。

主人公=聞き手という音声作品において、一般的に無個性の方が感情移入しやすいと思います。しかし、この作品の主人公は浅草ゆりとの関係が明確に描写されているんですね。
そこに対してうめがどう思っているかが、「癒しの音声」の中で散りばめられているのですね。だから改めて思いかえしたり聞きかえしたりすると濃いストーリーが見えてくる……。
もちろん似た試みは多くのサークル様がしてるとは思うのですが、大手のRaRo様が改めてそれをするのは凄い重大だと思います。
インタビュー等で意図が明かされていない以上ただの素人の憶測ですが、実は壮大なプロジェクトのはじまりなのかも……?

ダウナーながら面倒見がいい女子高生蔵前さん。彼女に恋愛感情とは異なるペットみたいな感覚で気持ちのいい音を届けてもらう。これがアニメ前のイメージでした。
ところが、アニメ1、2話を視ると蔵前さんがどれだけゆりさんのことを好きなのか分かってきました。そんな自分の心情を打ち明けてくれるトラック9の蔵前さん…。本当に「俺くん」のこと気が合うと思ってくれているんだなと感動しました。
ただ、ゆりさん(音声シリーズでは)「俺くん」に恋愛感情抱いてる節がありますよね。なんだか凄い複雑な人間関係になってませんか?

ゆるふわ幼馴染みゆりさんとクール系友達蔵前さんに癒されちゃう作品。アニメとは並行世界のようで、こちらの「俺くん」はきちんと人間です。
特にびっくりしたのは2人の耳かきの違いです。丁寧ながら動きに迷いがないゆりさんは、ゆるふわだけど押しが強い性格が出てますよね。耳の穴の入り口から少しづつ進めていく蔵前さんは、根っこの乙女な部分が見えています。
後、個人的には蔵前さんの「とろーん」の言い方が好きです。

音声作品に対して聞き手は「聞く」ことしか出来ない。実は音声作品内の聞き手の「姿」すら曖昧である。そのことを利用した作品です。
また音声を聞くことでしかキャラクターに会えないことと、学校でしか会えない生徒と先生という関係を重ね合わせた作品でもあります。

でも、実は本来全ての音声作品に対して(それどころかあらゆる創作物に対して)受け手は干渉可能なのではないかと思います。受け手がいることで作品は完成するというと少し陳腐でしょうか。
私は「学生時代の経験」「声優である奥野香耶さんのこと」「メタ視点のあるゲームを好む」ということを取っ掛かりにこの作品を楽しみましたが、それによって得た経験は音響の知識のある人や終末世界を描く作品を好む人とは違うはずです。

別に「水仙サカナを見つけられなかった」という結末に至った人がいても良いのだと思います。自分みたいに似た悩みを抱えたサカナへの心配心や大人としての意地で見つけ出してもいいし、終末を受け入れてそこで終わりにしても良いのです。
きっと受け手も自由に受け取って良い作品なんだと思います。その自由さが、この作品を主体的な体験にするのだと思います。

以前から目についた百合音声を購入していたのですが、しっくりこないことが多かったです。その私がこの作品には没入できたのは「私」の話だからなのだと思います。