満開の桜たちの中をまっすぐに歩いていた妖夢だったが、やがて一本の木の下に着くと立ち止まり、幹に手を添えてその枝の先を見上げた。
「わぁ、いつのまにかこんなに蕾が膨らんでいたんだ。この前の異変のせいでお屋敷の仕事は放ったらかしだったからなぁ」
周りと同じ桜の木だが、その木肌は周りの桜たちに比べると若々しく、おまけに一本だけ花を咲かせずまだ蕾の段階だ。しかし、その木を愛おしそうに眺める妖夢。
「私が生まれた日にお爺ちゃんが植えてくれたソメイヨシノ、白玉楼の庭で唯一本だけの生きている桜の木。あと少しすればこの花も開くわね、できればお花見はその時にしたいな」
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作品内容
神霊異変の後、突然倒れた幽々子を助けるべく、妖夢は紫の忠告に従い永遠亭を目指す。
だが、竹林で道に迷ってしまった妖夢は偶然妹紅の家にたどり着き、道案内を依頼する。
道すがら、蓬莱人の妹紅と亡霊の幽々子を重ねあわせた妖夢は尋ねる。
「あなたは……怖くないのですか? 大切な人と、いつか別れなければいけないということが……」
1300年の時を生きてきた妹紅は、妖夢の問いにどんな答えを返すのか。
そして、その答えを受けて妖夢の心に芽生えた決意とは一体何だったのか。
物語のイメージを盛り上げる素敵な挿絵入り!
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「話は聞かせてもらったわ!!」
突然、診察室の入口の扉が勢い良く開かれて部屋の中に甲高い声が響き渡る。
驚いた3人が振り向くと、そこには永遠亭のお姫様、蓬莱山輝夜が自信に満ち溢れた顔で仁王立ちしていた。扉を開け放ったその右手は大きく広げられ、その目は自分の出番を待っていたかと言わんばかりに輝きに満ちている。
「輝夜、お前もう元気になったんだな」
3人の中で妹紅が一番驚いた表情をしている。無理はない、なにしろ昨日の夜、輝夜を灰になるまで焼き尽くしたのは他でもない妹紅自身だったからだ。 -
もうおしまいだ、思わず目を閉じた鈴仙。だが既に刃がその身に到達し、斬られているはずの体には何も変化が感じられない。
斬られる感覚すらないまま命を絶たれてしまったのだろうか。だがそれにしては、現実的な感覚が残っている。そんなことはあり得ないが、まさか攻撃が外れたのだろうかと恐る恐る瞼を開く。
するとその目の前にはなんと妖夢の楼観剣を白刃取りで受け止めているもう一人の妖夢の姿があった。 -
「どうして、上から下まで用意されているのかな?」
タイツを履いた両足の膝をもぞもぞさせながら、妹紅がもう一度聞いた。いつもズボンばかり履いている妹紅は慣れないスカートに戸惑いながらも、妖夢の言うとおりに着替えてみたが、普段とあまりに違うその姿に自分でも驚いていた。
「香霖堂さんにお願いしたら、びっくりするほど張り切って作ってくれまして、それでこうなったのです」
どうやら、妹紅が着せられている服は香霖堂店主、森近霖之助の手製の逸品らしい。
「さぁさぁ、早く着替えて慧音さんを驚かせてあげましょうよ!」