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この集が扱う物は「妖怪狂歌」です。
妖怪とはなんぞや?そう問われて説明するのはやや難ではありますが、妖怪を知らないという方は滅多におりません。ところが、狂歌とはなんぞや?となると説明することはおろか、その存在すら知らない方も結構いらっしゃる。知っていたにしても、それは隠れキリシタンや大名行列のように、現時点には本物が存在しない歴史上のものだと思っていらっしゃる。なので狂歌講座と聞くと、百人一首講座などのように、江戸時代など古い作品の意味や背景を学ぶ講座であると思われています。ですから私は受講者の方に「実作」ということを主張しています。
さて、まったく微々たる存在ではありますが、近年にも実作の指導をしている(していた)狂歌人が数名知られています。狂歌を改めて興歌とした三代目和歌◯舎鶴彦氏(故・小◯藤五郎)、現代狂歌舎主宰の黒◯猿田彦翁(故・藤◯健一郎)、遊山人狂歌を主宰する小◯田遊山人氏、平成狂歌を指導する花◯爺氏(荻◯待也・内◯幸雄)など青豆流以外の流派もあるのです。また、近現代短歌の側から狂歌的なものにアプローチしている歌人も何人かいらっしゃいます。
その中で青豆流は、俊成・定家が和歌の中から切り捨てた、また鉄幹・子規が短歌の中に残さなかった狂歌の本質である「狂の境地」というものを拠り所に、天明期を中心に各種戯巧を復興し現代に即した新たな表現を創出する姿勢を特徴としています。
この満妖集は江戸期に編纂された『夷歌(ひなうた) 百鬼(ひゃっき)夜狂(やきょう)』や『狂歌百物語』など怪奇物文芸を真似て創作したのであり、青豆流の姿勢に合致する物です。狂歌を中心とはしているものの、青豆流の新味も加わり五七五七七に限らず広く言語遊戯と妖怪との融合を試みています。