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-概要
聡志と優樹がそっと覗き見た教室の中には、斉藤先生と幼馴染の莉緒が。校舎裏で関係を問いただすと…。
-本文サンプル
足音は聞こえなかった。けれど聡志はたしかに気配を感じた。遠くの木々が激しく揺れて、やがて強い風が体を包むのを予期するような、わずかな緊張をはらんだ予感がした。優樹も同じものを感じながら、それを自らの願望から生じた錯覚だと信じた。けれど、不意に現れて、小さな拳をぎゅっと握りしめたまま視線を伏せて立ち尽くす莉緒に、平静を装って先に声を掛けたのは優樹だった。
「ちょうど莉緒のこと、話してたんだ」
優樹のように、冷静にふるまわなければ後ろめたさを見抜かれてしまう気がして、とっさに聡志も口を開いた。
「お前、先生と、その…」
莉緒の首筋には、汗を含んだ艶やかな黒髪が一筋はりついていた。頬は紅潮し、うるんだ瞳は伏せられて、果実のような湿った光沢を帯びた下唇を、わずかにかんでいた。その姿はやけに艶っぽくて、すでに大人の男と関係を結んだ女のそれだと、少年たちは感じた。濃密な沈黙を破って優樹が口を開く。
「莉緒は聡志のこと好きなんだとおもってた」
「優樹くんにはわたしのこと、なんでもわかっちゃうんだね」
今にも零れ落ちそうなほど涙をため込んでうるんだ瞳を、まっすぐ優樹に向けて、声が震えるのを懸命にこらえながら、少女は言葉を継いだ。
「でもね、きっとまだ気づいてないよね。わたしが好きな人は、ひとりじゃ、ないんだよ」
-作品情報
ショートストーリー3000文字前後
挿絵枚4枚
差分込8枚
ファイル形式:PDF、JPEG、RTF(TXT)