タマはノノと共にカトラリーを手にすると、早速ヴァージャテイルのステーキを口に含む。
——まず驚くべきはその弾力だ。
こちらの歯を押し返すように、ぷりぷりとした弾力が口の中で踊る。
その歯ごたえだけで、ヴァージャテイルの尻尾がカナドの風を切り、雄々しく振り回される様子が、瞼の裏に浮かぶ。
かといって食べにくいわけでは決してなく、一度繊維が切られると、肉はあっという間にほどけた。
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——魔物だって、食べ尽くす!
「食」を愛する風変わりな神官タマとその仲間達が織りなす、グルメファンタジー!
旧人類が起こした大戦により、科学が滅びた世界。
魔獣との共生を余儀なくされた人々は、魔導文明を興した。
そんな中、魔物食は人々の生活に浸透していく。
自由都市同盟 中央都市アマルーナ。
三女神教の神官タマは、教会の教えで禁忌とされる魔物食をも厭わない変わり者である。
今日も今日とて、上司であるマルコ司教のお小言にもめげず、自分自身の美食を追求していく。
水棲魔獣のカルパッチョ、魔獣の骨から出汁をとったモツ煮込みスープ、絶品有角兎のロースト——といった高級料理から、
庶民の味であるラーメンやおにぎり、焼き鳥——などなど。
時にはダンジョンへ飛び込み、ジビエ食材を自ら狩りに行く!
世界のあらゆる『食』を堪能する、腹ぺこ神官物語のはじまりはじまり〜!
タマはノノと共にカトラリーを手にすると、早速ヴァージャテイルのステーキを口に含む。
——まず驚くべきはその弾力だ。
こちらの歯を押し返すように、ぷりぷりとした弾力が口の中で踊る。
その歯ごたえだけで、ヴァージャテイルの尻尾がカナドの風を切り、雄々しく振り回される様子が、瞼の裏に浮かぶ。
かといって食べにくいわけでは決してなく、一度繊維が切られると、肉はあっという間にほどけた。
「美味い……美味い、美味いッ。これが塩を振っただけだと……? 何故こんなにも美味い? どうしてこんなにもシンプルなのに強烈なんだ!?」
セティは辛抱たまらずと言わんばかりに二口目を食べる。
今度はさっきよりも大口だった。
タマはタマで口の中から唾液が溢れんばかりになっている。
食欲に逆らわず、塩むすびにかぶりつく。
「それはジビエという料理の根幹に関わってくる質問だね。私個人の考えで言うと肉はフレッシュな方が美味しいと思う。特に野生の魔獣は後から臭みが増してしまう傾向にあるからね。少なくともこのアンデララビットに関しては、心配いらないよ」
言葉を交わしている間にもアンデララビットはこんがりと焼き上がっていく。
じっくりと遠火で、丁寧に満遍なく身を回しながら。
ピンク色だった身の表面が白くなり、やがてきつね色になる頃には、周囲に香ばしい匂いが漂っていた。
柔らかな肉が、口内を転がり落ちていく。
すると、その体温に反応するようにして、比喩ではなく肉は溶けていってしまった。
よく、とろけるような食感だとか、歯を使う必要がない、だとか言われる。それはつまり、脂身が蕩け出していく様子を表現した言葉だ。
だが、全てが赤身であるこのシャトーラビットの肉は、脂が溶け出すのとはまた違った感覚で、その繊維をほどいていってしまった。