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「なんで間違えたんだろ(笑)」
間抜けな声が聞こえた。
おれは気が付いたのか目を覚ましたのか分からないが、ぼんやりとする頭で周囲を認識し始めた。
周りは光の世界で靄がかかったような空間、生暖かい空気が全身を包み込んでいる。
浮いているのかおれは?
「完全に間違えた(笑)」
目の前をふわふわとしている周りよりも強い光を発する玉がもう一度言った。
いったい何を間違えたんだろうかと気に掛けるよりも、この空間に体を預けて漂うことに夢中になっていた。
「聞こえているか分からないけど、ホントにゴメンね。間違えて君を、アキラ君をここに呼んでしまったんだよね。でも元の世界に返してあげることは出来なんだ。ホント、ゴメン(笑)」
ごめんを連発する声の主は自分のやったことを何一つ悪いとは思っていないような軽い謝罪を繰り返した。遅刻して友人に謝るようにごめんと言っているが、なんだか重大なことをさらっと言ったような気がするんだが。
しかし、
「これは、夢だよな」
夢の中で夢と認識したことは数回あったが今回もそれだろう。こんなこと現実であるはずがない。
確認するために光の玉に質問したみた。
「あ、起きたの? クククッ、これは現実だよ(笑)」
光の玉は笑って言った。何が面白いのか分からないが、夢の中で夢の住人である光の玉に聞いてみても、そりゃ変な回答しか返ってこないか。まあいいや。
起きたら休日の朝、午前中は自室で大人の動画鑑賞をして昼から出かけよう。年末商戦で安くなった商品を見に行こう。
それまでここで過ごすのもいいだろう。
「なるほど。んで、ここはどこなんだ?」
「ここは神様の世界だよ。とは言っても入口みたいなもんだけどね(笑)」
神様の国か夢らしい設定だ。
「そしてアキラ君は選ばれたんだ、異世界を救う勇者にね。でも勇者はもうその世界にいるんだよね、だから間違えたの。アキラ君を元の世界に戻してあげたいけど戻してあげることは出来ないんだよね。とりあえずアキラ君はこれから異世界に行ってもらわなくちゃいけない(笑)」
安い設定と無茶苦茶な理由。夢にしてもテキトウすぎるだろこれは。
「異世界に行って何をすればいいんだ、魔王を倒すとか?」
「大正解! 魔王を倒したら元の世界に戻れるの。でもそこには本当に選ばれた勇者がいるからその人が魔王を倒してくれると思うんだ。だからアキラ君は勇者を応援してね(笑)」
異世界に飛ばされて冒険するでもなく、勇者の応援。その土地で勇者が魔王を倒すのを待つ。クソゲーだ。
「何か質問ある?(笑)」
光の玉は楽しいそうにふわふわと浮いている。
よく分からない場所でよく分からない任務を課せられても、所詮夢の世界での出来事。考えても意味もなく、質問しても意味がない。
夢の中のおれは異世界に行くことが決まっている、それでいいじゃないか。
「いいや、何もない」
「それじゃ、異世界にっ、とその前に間違えたお詫びに何か欲しいものはある? 女神様になんでも言いなさい(笑)」
この光の玉、女神だったんだな。
欲しい物か、おれは女神の言葉を受け熟考した。そして言う。
「時間を止められる時計が欲しい!」
全ての冒険はここから始まった――。
文字数は6500字ぐらいです。