理性溶け夢叶う F○te/zero×ゴブ○ンスレイヤーcrossover

【冒頭抜粋】

一九九四年、秋の心地よい風が次第に寒さを増し始めた時期であった。
　骨身に沁みる木枯らしとなった風が、冬木というその一帯の名前に相応しく――または冬木という名とはかけ離れた暖かな気候のこの地を、吹き抜けていく。
　冬の足音が聞こえ始めてきた。
　この年は様々な出来事があったが、もう何週間もすると新しい年を迎えるという時期になった。
　来年こそは穏やかな年を、と鬼が笑うような事を人々がぼんやりと思い始める頃。

【冒頭抜粋】

　その闖入者を例えるなら、一滴のインクのようなものだ。
　それは、吹けば消し飛んでしまうような、些細な存在であった。
　しかし、一滴のインクが滴れば、じわりと染み込んでいくのと同様に。
　取るに足らない闖入者が、危うい均衡で成り立っていた冬木の地に、大きな歪みを齎していった。
　東洋では子鬼、西洋ではゴブリンと呼ばれる存在である。
　それは、一体何処から来て、何処へ向かおうとしているのか、誰にも分からないし、誰も興味を持たなかった。
　個においては、その地で行われていた凄惨な闘争になんら影響を及ぼさなかったからだ。
　しかし、個においては、の話である。

【冒頭抜粋】

人には誰しも、強く記憶に刻まれた経験というものがある。
　それは、価値観の違いから強いショックを受けたという経験でもある。
　感情を揺さぶられる様な感動的な光景という事もあるだろう。
　はたまた、物理的な衝撃……文字通りの乱暴を受けたトラウマ、という事もある。
　それらの感情が、ソラウ・ヌァ○レ・ソフィアリにはほぼ無かった。
　全く無い、と言うわけではない。
　彼女も人であるから、さざ波程度ではあるものの、感情の動く瞬間というものを経験してきてはいる。
　ただ、それらももしかしたら指折り数えられる程度しかないのかもしれない。