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主人公の和泉時雄(いずみ ときお)は、成り上がり華族の跡取り息子。幼い頃に拾われ、妹として育った
結衣(ゆい)と共に、屋敷で暮らしていた。母親は早くになくなり、父親は世界中を飛び回り家に寄りつかない。
そんな中で時雄と結衣は、本当の兄妹以上に仲良く、そして家族の絆を深めていた。
しかしある日、隠されていた屋敷の地下室で怪しい棺を見つけた時雄は、結衣が止めるのも聞かず、好奇心から
蓋を開けてしまう。──果たして、中にはなにも入っていなかった。がっかりする時雄と、ほっとする結衣。
ところが、事件はすでにこの時から始まっていたのである……
その夜、テラスで結衣の姿を見かけた時雄は、そこで信じられない光景を目にすることになる。
時雄の方に振り向いた結衣の目は紅く、紅く光っていた。そして次の瞬間、結衣の髪は美しい金髪へと代わり、
口元には鋭い犬歯が覗く。
エル「この身体はもはや妾のものじゃ」
吸血姫エル──そう名乗った少女は妖しく微笑むと、時雄の血を吸い始める。血を吸われるけだるさと共に
しんじられないほどの快楽を感じながら、時雄の意識は遠のいていくのだった……。
昼はしとやかで可愛い妹。夜は高貴で生意気な吸血姫。
二つの人格を持つ少女との生活は、この日から始まったのである。
■■■登場キャラクター■■■
◆エル
結衣の身体をのっとった、自称「高貴なる吸血姫」。性格は尊大でわがまま。
相当長く生きているらしく、時雄や他の人間を子供扱いし、言葉扱いは古めかしい。
基本的には夜になると結衣と入れ替わり表に出てくるのだが、そのほかにも入れ替わる要因はあるらしい。
◆和泉 結衣
時雄の妹。赤ん坊の頃に和泉家の前に捨てられており、そのまま引き取られた。性格はおとなしくて引っ込み思案。
エルとは正反対である。エルと兄の度重なる行為にしらずと身体は開発され敏感になっているが、
本人に性の知識はほとんどなく、とまどっている。エルが表に出ている間の記憶は無く、本人は眠っていると思っているようだ。
◆氷上 若葉
氷上神社の一人娘。しかし、家が神社であるにもかかわらず看護婦に憧れ、今はクラウスのところに出入りしている。
時雄とは幼馴染で小さい頃から密かに想いを寄せているが、それを表には出そうとしない。そのためか、
時雄と会えば常に言い合いがたえないようである。一方結衣に対しては実の妹のように接し、良き姉として慕われている。
◆ナタル
エルが結衣に乗り移ってすこし後、突如屋敷にやってきたメイド。倫敦にいる際に時雄の父・柾時に雇われ、
日本にやってきたことを告げる。非常に明るく前向きな性格で、人見知りをしない。
得意というだけあり料理の腕は確かだが、その他の家事はまったく不得手。お茶をこぼさず運ぶのも一苦労である。
そしてどうやら、エルとは何か関係があるらしい。
◆茅乃
和泉家所有の遊郭「葵屋」にて、一番人気の花魁。美しく艶びやかで、顧客も多い。性格はさばさばとしていて、
きっぷがよい。しかし本人は浮き世のことにあまり興味がないようで、どこか冷めているようにも見える。
時雄には「和泉家の若旦那」としていろいろな面で期待しているらしく、最近では女を教えたくて積極的に誘惑している。
◆クラウス・榎田
帝都から街へ移り住んできた若い医師。外国生まれのハーフだが日本に暮らして長いらしく、日本語はぺらぺら。
人当たりが良く医療も丁寧と評判で、界隈ではすっかり人気の医者である。父・柾時の知り合いで、
和泉家は一家全員お世話になっている。
◆和泉 柾時
和泉商店の大旦那にして、時雄と結衣の父親。豪快な性格とその行動力で、一代にして和泉家を富豪にのし上げた。
現在は海外にて音信不通だが、いつものことなので時雄は放っておいている。
◆執事・女中
和泉家では、執事の菊池を筆頭に使用人を多数雇っている。特に結衣は花嫁修業として使用人達の手伝いを
することが多く、かわいがられている。一方、時雄は父の代理として、毎日菊池に絞られているようだ。